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「お前たちは戦わないのか?」
シロクの問いに、
「俺たちだけでは倒せないし、ギルドの顔である二人が争っているとなると、下で動く俺たちはこんなところにいるわけにはいかない。ゴムゴブリンなんかの雑魚を倒して魂脈と素材は十分手に入れたしな」
その言葉を信じる根拠はないが、この周りに雑魚モンスターと呼ばれる存在が一匹もいないのは、彼らが倒してくれていたおかげなのかもしれない。
「塔を攻略するよりも、大事なことなのか?」
「塔を攻略する前に、ギルドがなくなったら意味がない」
「なくなるのか、ギルド」
「わからん。元々グルリポさんが、ドドンメさんの力を見て誘ったって話だが、その二人が大きく意見を違えることなどなかったからな」
シロクと話している間に、動ける者が、動けない者に手を貸して、アラクネロイトーの動きを警戒しながら、横穴ではなく入り口の方へと歩いていく。
「俺たちにとっては、表と裏、裏と表の顔をそれぞれに持つ二人がいてこそのギルドだ。どちらかを失ったらギルドは維持できない」
『新米勇者候補決定戦』で暴れる表の顔と、役人と通じてギルドのリーダーを任される裏の顔を持つドドンメ。
ギルドの創始者でありギルドを裏で操り、塔破者として表で活動するグルリポ。
戦闘能力に大きな差はないが、武器と腕力でドドンメが勝るだろうか。
しかし、実践を積み重ねているグルリポの動きも侮れない。
楽しめるほどの余裕は持ち合わせていないが、どちらが勝つにしろ、争っている時点でただ事ではないのだ。
「また、一人になっちゃったな」
ケガ人をはじめ、他の塔破者がいなくなり静かに、そして広くなった空間でアラクネロイトーと対峙するシロク。
アラクネロイトーも、隙を見せても踏み込んでこないことに業を煮やしたのか、ゆっくりと立ち上がった。
「お前の思い通りの狩りはさせない」
シロクは周囲に気配がないことを確認して、エメラルド・ソードを思いきり振る。
ガギン、と金属音を響かせてクロスさせた前脚で受け止められる。
シロクの攻撃を受け止め、後ろ脚の関節をありえない方向に曲げて頭上からシロクを串刺しにしようと襲い掛かる。
一歩引いて、剣で受け流そうと重心を背後に傾けた時、頭上に迫る二本の脚があらぬ方向に弾けた。
「グ、ギグ……?」
ダメージはないようだが、なにが起こったのかモンスターの癖にわらかないと言ったような顔をしているアラクネロイトー。
(シロクくん!)
頭の中に直接声が聞こえた気がした。
シロクは大きく一歩背後に飛び退ると、追撃しようとしたアラクネロイトーの体に八つの光が同時に殺到し、爆発する。
体勢を戻しかけた二本の脚だけでなく、シロクの刃を受け止めた二本の前脚、さらには他の後ろの三本の脚――シロクが一本を切断したため、残り七本の脚に同時に、色鮮やかな魔法の弾が飛んできて弾けるが、それだけではなかった。
脚で防御できずに無防備になった背中と顔で一発ずつ、魔法が爆発する。
「グゴゴゴオオオオオオ」
野太い悲鳴と灰色の煙を体から上げながら絶叫し、暴れるようにシロクに体当たりをしようとした時、最後の一発――九発目の弾丸がアラクネロイトーの頭上から降り注ぎ、動きを封じた。
アラクネロイトーの上半身に絡みついた黒い糸が自由を奪う。
「アラクネロイトー、それはお前の糸みたいだな」
後ろ脚だけをどうにか地面につけ、一番弱い腹を無防備にシロクにさらけ出すアラクネロイトーは、脚をばたつかせるが、余計に黒い糸が絡まって動ける範囲が狭まっていく。
確かにこれならばシロクの邪魔にならないどころか、他の人間がいては、こんな攻撃は絶対にできない。
シロクの勘の鋭さと運動神経、さらには優れた五感と信頼関係があるからこそ、できた芸当ともいえた。
「やっぱり、すごいよ。セレナとエーコは」
シロクはエメラルド・ソードを頭上に構える。
「塔治者、俺は、上の階へ行く!」
振り下ろされたエメラルド・ソード。
アラクネロイトーは、真っ二つになって消滅し、代わりに見たことがない量の魂脈と、これまた見たことがない素材を、両手で抱えたって持ちきれないぐらいの量を吐き出した。




