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「シロクくん」
塔の入り口から入り、無人の受付を横目に見て、光の漏れる右の道――昨日、シロクとエーコがアラクネロイトーと戦い、そのアラクネロイトーが迷宮を横にも上にも広い一本道にしてしまった先へと走る。
「どうした」
シロクが先頭を走るものの、迷宮が変化せず迷宮としての形を保っていないことに多少の疑問を抱きつつも、三人は走り続けている。
「私たち、勝てるかな?」
本当はグルリポのことが聞きたかったが、隣に並ぶセレナが複雑な顔をしていて、話題に出すことが憚られた。
「勝つに決まってる。そしたらセレナ」
エーコと話していたシロクから話しを振られて虚をつかれるセレナ。
「俺はお前をギルドからもらう」
「うん……。意味がわからないけど、ありがとう」
アラクネロイトーを倒したってギルドからメンバーをもらえるなんてルールは存在しないが、シロクのことだ。どんな無茶でもやってしまうのだろう。
一度はシロクの誘いを断っているが、その理由をシロクも察してくれた。
その元凶をどうにかしてくれる――そう読み取ってしまう。
「エーコ、俺たちはどう動けばいい」
唐突に意見を求められ、走りながらでは思考が定まらないが、それでも無理矢理に集中した。
(私が一番経験がある。戦闘のであり、戦闘ではない経験が)
前衛でハイスとトーレが戦っていたのを、常にすぐ近くで見ていたエーコ。
どういう動きをしたら成功し、どういう動きをした場合は失敗しかけたか。
必死に記憶を探り、その中からシロクとセレナと合わせられる動きを模索する。
でも……。
エーコは頭を振った。
「シロクくんは好きなように動いてくれればいい。私とセレナちゃんは、それを可能な限りサポートをするし、それ以上に」
エーコが隣を見ると、セレナもなにかを察したのか真剣な面持ちで頷く。
「私たちは足を引っ張らないように隠れながら動く」
シロクの戦闘を見ていると、それが最善だと判断した。
昨日今日会ったばかりの相手と動きを合わせるのは不可能だが、あれだけの巨体を持っているモンスターにならば、小柄なシロクが一人で対応できる面積には限りがある。
それ以外の部分を二人で対応すれば、いくらでもシロクのサポートができる。
「私たちはシロクくんを邪魔しないように援護して、なによりシロクくんに心配させないから」
「それが一番いい!」
シロクは笑った。
小難しいことを考えて動くよりも、好き勝手に動くシロクに合わせてもらう方が動きやすいし、無茶して足手まといになってしまえば、それは誰の得にもならない。
セレナもエーコも、自身の弱さを知っている。
だから無茶をしないし、そんな無茶をしなくてもシロクが倒してくれるという確信がある。
「一秒でも早くあの蜘蛛を倒す!」
「ええ、そうすれば塔の脈動が止まり、魔法を使える人たちが塔を修復してくれる。その後は、残っているモンスターを討伐すれば、しばらく塔治者不在で、モンスターが湧かない塔の完成――塔破者には困るけど、平和な塔になる」
それでもその平和が約束されるのは数日のみだ。
二日か、三日か……何日になるのかはその時々で変わるが、その間は塔破者は暇になってしまうため苦情を多く受けることだろう。
「前から悲鳴が聞こえる!」
会話に参加していなかったセレナの耳がその声を拾う。
「俺が先に行く。二人は後ろから、できる限り見つからないように来てくれ」
「うん」「わかったわ」
セレナとエーコの返事を背中で受けて、二人を置き去りにする速度まで加速する。
「速いなぁ……」
暗闇の向こうで半月を描くように緑色の光が見えた。




