表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/98

11

 憧れて塔破者になったわけではない。



 塔破者になれば、十年前あれだけ好き勝手に暴れていたモンスターたちを倒せると思ったからだ。


 自分が絶対強いと思っているモンスターを、人間である自分が武器や魔法を使って、金を目的に狩るなんてことが、圧倒的な力を持つモンスターを最高に見下している、最高のシチュエーションだと思った。


 これぞ本当の弱肉強食。


 だが、一つ目の塔を塔破し、次の塔に入る権利を得たグルリポであるが、そこで手痛い敗北を喫した。


 一人で蹂躙できたモンスターたちから逃げなければいけない、という十年前の子供の頃の忘れ去りたい記憶が呼び覚まされてしまう屈辱を味わった。


 そこで考えたのが、ギルドというものを作って効率的に金を稼ぐシステムだった。


 裏町で暴れていたチンピラのドドンメという明確な力を持った賛同者を得て、誰もが恐れるそいつをリーダーに置くことで、力があることを知らしめることができた。


 それでどんどん集まってくる仲間たち――だが、そいつらは塔の中で、自分の利益を多くするために、仲間を殺し、争っていた。


 それを知り、グルリポは思った。



「勇者なんてものを目指すのは馬鹿らしい。塔破者として金を稼いで暮らすのが一番賢い。仲間なんて切り捨てる存在だ」



 すっかり忘れていたが、幼少の頃には今の時代の子供たちと同じように、勇者に憧れて、木剣やタルの破片で作った防具なんかを身に着けて、見たことのないモンスターを戦う遊びをしていたかもしれない。


 勇者への憧れ――塔破者には抱かなかった憧れが、その先にはもしかしたらあった。


 だが忘れた。


 馬鹿馬鹿しい、無理だ、挫折した――現実を知り、未来を見通すことで、世界はつまらなくなった。


 塔破者が増えすぎて、自由に塔破者を名乗れなくなり、『新米勇者候補決定戦』が開かれるようになってからは、子供の頃の自分を消し去るかのように、子供を選んで優勝させて、辛い現実を突きつけた。


 それを繰り返すうちに「ほらな。勇者になるなんて無理なんだ」、そう思えるようになり、子供の頃の自分に言い聞かせるように、諦める心で過去の自分にフタをした。


 しかし、演技でもなく、本気で戦ってドドンメを倒してしまった子供が現れた。


 別の子供を優勝させるつもりで、タイミングを見計らっていたのに、飛び入りで参加してきた一人の少年。


 笑顔で楽しそうに戦うシロク。


 そんな彼は言ったのだ。


 今の時代、笑われてしまうようなことを。



『僕は勇者になりますよ。仲間を集めて、この国を解放するんです』


『お世話になった人に恩返しをするためです』



 普段なら、アホらしいと鼻で笑っていたが、ドドンメを倒すだけの実力を有して、自分のためではなく他人のために勇者になろうとするシロク。


 いつもならすぐにターゲットに接触するのだが、シロク相手には渋ってしまった。


 しかし、そのシロクとの接触は偶然が齎した奇跡ともいえた。


 今までと違うパターンのシロクに、どう接触しようかと考えているうちに、いつもの倉庫の間で寝てしまったグルリポの前に、突然現れたシロク。


 なにも知らない、純真で無垢な目をしていて、正直……。



(嫌いだった)



 かつて自分が諦め、投げ捨て、見下してきた勇者に真正面から憧れを抱き、あれだけの実力を持っていた。


 シロクを目の前にして嘘を吐いて、知らない振りをして接してみたが、単純なのか素直なのか、グルリポの言うことをすべて信じてくれる。


 やりやすいと思うと同時に拍子抜けをしてしまったし、そのままいつもの流れでギルドへ入りたくなるように少しだけ驚かせてやろうと思ったのに、シロクは木剣を持ちながら木剣を使わずにゴムゴブリンを殺してしまった。



(口だけじゃなかったんだ)



 諦めない心や、折れない信念とか、そんな理想を並べ立てた綺麗ごとではない。


 本当にやってしまえるのではないか、という可能性を感じさせてくれた。


 グルリポには他人の人間の未来を、ある程度まで見ることができるのに、シロクからはまったく見えなかった。


 そもそもグルリポの未来を見通す力は、圧倒的な観察眼を使い、経験や情報、性格などから最も取りやすい可能性を絞ることで、未来を見通しているに過ぎない。


 魔法でも、特別な力でもない。



『僕は勇者になりますよ』



 シロクの笑顔で紡がれるその言葉が、閉ざしたはずの胸の扉を少しずつ開いてしまった。


 一緒にい続けると、シロクをカモにするというギルドの方針だけでなく、自分の心をもかき乱されそうになって辛かった。


 だから、素っ気なく突き放した。


 それなのに、なんの因果かセレナが出会ってしまった。


 それならと、セレナを使ってシロクを陥れようとするも、悉く失敗するだけでなく、セレナに課している辛いノルマすらも達成してしまう。


 あれだけ簡単に金を差し出すようなやつだ。セレナの事情を知って同情しているのは想像に難くなかった。


 問題は、そんなことができてしまうシロクの懐の深さだ。




『シロクさえ、いなければ……!』




 そんな言葉だって出てきてしまう。




 シロクさえいなければ――。





「俺の計画を、夢を――一度捨てたはずの未来を引っ張り出すな!」



 グルリポは怒鳴り、ドドンメに迫る。




「俺の夢を邪魔しやがって!」




 シロクのことではない。



 許せないのは、夢を諦めて嘘を吐き続けていた、自分自身にだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ