06
グルリポと入れ替わりに、セレナとエーコが息を弾ませてやってきた。
「エーコさんは……甲冑、いいんですか?」
今のエーコはラフな格好にスリングショット『サンフラワー』と、エンピから借りたポーチを携帯している。腰にベルトで止めていた麻袋が、今の格好では使えないのだ。
「塔のような場所に入るならなにかしら身を守るものがほしいけど、ここなら動きやすい格好の方がね」
ぼいん、とでも効果音をつけたくなるぐらい、走る度に大きく揺れる胸に、同じ女ながら目を奪われていたセレナ。
「それに、モンスターに近づかなければ防御は必要ない」
ハイスとトーレと塔に入っていた時だって、どんなにいい甲冑を身に着けていたって、傷一つつけられるようなことはなかったのだ。
それは二人が守ってくれたからに他ならないが、力の弱いエーコでは、あれを着て機敏に動き回るには体力が足りないと判断した。
「それよりセレナちゃんは? そのフードの下になにか着てるの?」
「防具の類はなにもありません。服は着てますけど」
そんな当然の返答にエーコは無言で頷くしかなかった。
「魔法銃なら持っていますけど、使えるほどの腕はありません」
「なら、セレナちゃんはどうやって戦うの?」
「私は元々……アイテム合成士なので、戦闘はできません」
一瞬、セレナがなにを言っているのか、エーコにはわからなかった。
アイテム合成士というものがなんであるかわからなかったわけではない。
あまりに意外で貴重な役割を持っていたことに、情報の処理がおいつかない。
「……正直な話、すごい貴重な能力よね」
「そうかもしれませんけど、私がいたところでは、そういうことをして遊ぶしか、他にすることがなかったので……」
魂脈を掘る男たちを相手に酒を提供する店にいたセレナ。
母が経営をしていたため、断ることができなかった。
そんな辛い生活の中でも、男たちが持ち帰ってきては、金にならないから捨てて行くような小さな魂脈や、モンスターの素材を拾って遊んでいたセレナは、その中でアイテムの合成術をいつの間にか身に着けていた。
職業や特技というよりも、ただの趣味だった。
小さくて不要とされた魂脈でも、磨けば綺麗になるし、金にならないという素材だって使い方を変えれば綺麗なアクセサリーになったりする。
そういう楽しみしか、日々の生活の中にはなかったのだから仕方ない。
「魔法銃は顔も知らないお父さんのものです。ギルドに所属させられているから、私は戦うための武器として持っていますけど……」
本当は戦闘なんて向いていないことはわかっているが、ギルドのメンバーに貴重なアイテム合成士であることだけは、話さずにいた。
幸いなことにギルドのメンバーは誰も、その可能性を考えることなく、魔法のバッグを持っていても、そこから出てきたのが魂脈を大量に必要とする骨董品、魔法銃だったことで、そのための魔法のバッグなんだろう、と勝手に勘違いをして、それ以上を探らなかった。
「本当はこんなのよくわかりません」
「そうだったのね……」
「でも、今だけは戦うために使います。シロクくんの助けになるかはわからないけど、塔破者である以上、困っている人を助けられる力を持っているんだから」
セレナはバッグの中からいくつかの魂脈を手にして、それを握りしめる。
三つの銃の弾倉に赤い魂脈を入れて、銃を構えてその時を待つ。
「じゃあ、塔の方へ行きましょう。まだアラクネロイトーの姿が見えないけれど、これを止めるには、あいつを倒さないと」
「はい……」
年上のエーコに引っ張られるようにセレナも走る。
(このリーヴ・リリースっていうのがグルリポの狙いなの? だけど)
周囲を見回しても、ギルドの見知った顔は一人もいないが、一人だけよく知る男の姿を見つけることができた。
「シロクくんが向かい合っているのって……」




