03
「塔から出てきたモンスターが暴れている、助けてくれ!」
武器屋街の柵の内側にいたシロクとセレナ、エーコたち塔破者は、朝一で入っていた大規模討伐チームとそのお零れにあやかろうとする塔破者たちが、三人を残して全滅したという報せを受けた。
セレナは「やっぱり」と思う一方で、エーコは尻込みをしていた。
ハイスとトーレという仲間を最近失ったばかりで、また塔破者が大量に死んだ。
その中には顔見知りがいたかもしれない。
そう思うと、足が地面に縫い付けられたかのように動けなくなってしまう。
「シロク!」
そんな二人の反応を他所に、シロクは初めて武器屋街を訪れた時とは逆に、詰所のある門を通らずに、柵に足をかけて軽々と跳び越えて、向こう側へと着地した。
「うそ……。あそこを飛べるなんて……」
仕事がない時は、武器屋街の中と外の警備をしていることのあるエンピが、シロクの一瞬の動きに驚愕する。
あんな動きをされて飛び越えられては、警備など意味をなさない。
「って、そんなこと考えてる場合じゃない。セレナさん、エーコさん、シロクさんが!」
「うん……。追いかけなきゃ。セレナ、ちゃん……で、いいのかな?」
セレナは被ったフードの奥で、小さく頷く。
「モンスターが塔の外に出てきたってことが、なにを意味しているかわかる?」
それには首を横に振る。
「私がまだ塔破者になる前に一度だけ、それが起こったことがあるの」
セレナは顔をあげて、暗い声音を出すエーコを不思議そうに見つめる。
「塔からモンスターが出て来て、戦う力を持たない、抵抗できない人間がたくさん殺される事件が、この町で、あの塔を含む複数の塔で起こったの……」
ギルドに所属したことでセレナも、情報としては知っている部分もある。
例えば闘技場で『新米勇者候補決定戦』の際に放たれる五匹のウルルフを塔内部で、定期的に捕獲をすること。
モンスターは地上ではいくら試みても繁殖をしないことが研究の末わかっているので、必要とされる度に捕獲が行われるのだが、そこに問題がある。
地下迷宮からあがってきたモンスターは塔の中を徘徊する習性があるが、なにも塔の中が好きなわけではない。そこしか行く場所がないから、出口を求めて、上階を目指して彷徨い歩いているだけなのだ。
それはやはり太陽の光に惹かれている、という見解が一番打倒と判断される。
そんなモンスターを塔内部で殺せば魔力の影響か、魂脈と素材を落として亡骸は消えるが、塔の外で殺せば魂脈と素材は出ないが、亡骸が消えるようなことはなく、毛皮や骨、肉などが人間の生活のために剥ぎ取られる。
それができるのも熟練の塔破者や国防軍の衛兵などが力を合わせることで行える危険な行為であることには変わりない。
「闘技場で放つためのウルルフの群れとは違う、ゴムゴブリンやもっと強いモンスターが数匹まとめて、塔の外に出て人を殺す」
「そんなことが……」
田舎町の出身のセレナだけでなく、まだ若いエンピも知らないようでエーコの話に真剣に耳を傾けるが、エンゾーだけは違った。
エンゾーは脂汗を浮かべながら悪くした右足を撫でる。しかし痛みはまったくひかない。
「それをリーヴ・リリースって言うの」




