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「それじゃあ、この外側の半円は?」
「ウルルフの牙の中に小石を一つずつ入れてみろ。しっかりと中はくりぬいてある」
「あ、本当だ……」
エーコは一つずつ、まごつきながらも小石を落とす。
「最後にさっきと同じようにゴムのところに小石を乗せて、まとめてゴムを引っ張る、と」
エーコは言われるまま、流れ作業のように空に向かってゴムを引っ張る。
先ほどは引っ張り過ぎたせいで、小石が想像以上に飛んでしまったので、今回は控えめに。
ギリリリリ、とゴムが伸びる音が微かにして、指が放された瞬間は空気を切り裂くような速度で小石が射出される。メインの一つと、サブの五つ、合計六つの小石が同時に放たれる。
「……すごっ」
その光景にエーコが一番の驚きを見せた。
六つの小石のうち、真ん中の一つは真っ直ぐ飛んだがウルルフの牙から飛んだ五発は弧を描くようにして外側に膨らんだかと思うと、真ん中の一つに吸い寄せられるようにサブの五つが集まり、そして空中でぶつかったかと思うと、爆発でもしたかのようにサブの五つがそれぞれの方向に猛スピードで弾けて飛んでいった。
「なにが起こったの……」
見えていたのにわからないセレナ。
「こう来て、こっちから、バーンって!」
見たまんまを、身振り手振りで伝えようとするシロク。
「ウルルフの牙は真っ直ぐではなく反っているため、小石を射出した直後は外側に飛ぶが、空中で内側に戻る軌道を取る。そして真ん中のメインの小石にぶつかることで、サブの五つは別方向にいる敵へと、まとめて攻撃ができる」
エンゾーの説明に、ただのスリングショットにしてはなんでこんなに変な形で、こんなにも素材を必要としたのだろう、とエンピは疑問に思いながら手伝っていた。
「嬢ちゃんは魔法を使うってことだからな。赤の炎、青の水など、色々な合成魔法だって使えるのだろう?」
にやり、とでも形容しがたくなる笑みを見せると、その意味をエーコだけでなくセレナも察した。
セレナも同じような魔法銃を持っているが、セレナの魔法銃に一度に装填できる魂脈は三種類までだ。
「これなら一度に、色んな属性の弾を撃てる……」
「牙の方に弾を込めるのは手間がいるので戦闘中には難しいかもしれないが、余裕のある時に込めれば、いくらでも強力な魔法を使えるって寸法だ」
「……通常時は、真ん中だけを使えば、近距離でも中距離でも遠距離でも戦える」
スリングショットでは近距離では使えないものだが、それを可能とするのがゴムゴブリンの特殊な伸縮性を持つゴムだ。
それならば少し引いただけで、十分な威力の弾を放てる。
「どうだ、気に入ってくれたか? それは紛れもなく魔法ブーストの付与があるぞ」
「はい。とても気に入りました。ありがとうございます」
エーコはスリングショット――サンフラワーを胸に抱いて深々と頭を下げた。
「礼ならシロクに言え。こいつの素材と魂脈があったからそれができた。ついでに、うちの弟子も褒めてやってくれると、弟子の成長にも一役買ってくれるかもしれないがな」
エンゾーの妙な言い回しに、エンピは驚いてエンゾーを見ると、エンゾーは笑って弟子を見ていた。
「ありがとう、エンピくん。あなたのおかげで、私は戦うことができる。もちろん、シロクくんもね」
「うん、パーティーの仲間だもん。当然だよ」
にっこり笑うシロクに対して、ほんの僅かに頬を緩ませて息を吐くエンピ。
客に感謝される喜びと、師匠に褒められた喜び――職人として、塔破者の役に立てたという事実を、深く噛み締めた。
武器も揃い、シロク、セレナ、エーコの三人の準備が整い、これからの具体的な作戦を誰からともなく口にしようとした瞬間、それは起こった。
柵の向こう側に、必死の形相で走ってきては叫ぶ声。
「朝入った塔破者が三名を残して、全滅した!」
その異常事態に、驚く者がいる一方でシロクとセレナは違う顔を見せていた。
(やっぱり、そうなった……)
しかしセレナの予想とは違う――事態は、最悪の方向へと、もう一歩進んでいた。
「塔から出てきたモンスターが暴れている、助けてくれ!」
シロクは、その声に今まで見せたことのない険しい表情を見せている。




