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17

 あれから二人と別れ、門番が交代した武器屋街に左手の甲を翳して入り、エンゾーの店へと戻った。


 エンピの買ってきた朝食を食べ、エンゾーの背中を見続けているエーコの近くで、シロクとセレナは待ち続けた。


 ただ時間だけが無為に過ぎて行く感じがしたが、窯の前ではエンゾーが忙しなく動き、その身の回りのサポートをエンピがしているため、エンピも段々と自由の時間がなくなった。


 もう窯になにかが突っ込まれることもなければ、鉄を打つような音も聞こえなくなり、今は組立作業の只中である。


 もうすぐ完成する――それがわかると、エーコだけでなく、シロクもセレナも首が自然と伸びてしまう。



「できたぞ! 完成だ!」



 エンピを後ろに従えて、エンゾーが足を引きずりながら外へと出てきて、太陽の光に顔をしかめる。



「これだ、嬢ちゃん。名づけて……」



 大きくて太い、逞しい手の平の上にあっては小さく見えてしまうエーコの新しい武器。


 スリングショット特有の「U」の形ではなく円。


 中央に配された大きな円を囲うように五つの半円があり、中央の円だけでなく、その五つの半円にも独立したゴムが備え付けられ、五本のゴムの先にはウルルフの牙が備え付けられている。


 また中央の大きな円のゴムの先には、通常のスリングショットと同じ仕組みにされているため、パッと見ただけでは五つの半円と、そこに繋がる牙の存在理由はわからない。



「サンフラワー」



 エンゾーがドヤ顔をして差し出すのを、エーコは震える手で、それを掴んだ。



「すまんな、シロク。お前の素材と魂脈、全部使っちまった」

「いいよ、別に。また稼ぐから」

「うちには武器の依頼が来ないから、魂脈のストックがなくて、窯の火を起こすのに使っちゃいましたからね……。ちょっと勿体なかったです」



 エンピが申し訳なさそうに言うが、シロクはそんな些細なことは気にせず感慨深げに武器、サンフラワーを持つエーコの動向を気にかけた。



「試し撃ちをしてみるか? 昨日、シロクたちの寝ていた場所では自由に武器の試し撃ちができるようになっているが、魔法銃とか危険なものは空に向かってな」



 エーコはなにも言わずに頷き、シロクとセレナ、エンゾーとエンピも全員で店を離れた。



「ここらでいいだろう。弾はそこらに落ちている小石を使ってみろ。人には向けるなよ、殺傷能力高すぎるからな」



 エンピに支えられたエンゾーが、呼吸を整えながら先頭を行くシロクにも聞こえるように言えば、シロクはキョロキョロと辺りを見回し小石を見つける。



「一つじゃダメだ。七個持ってこい」



 シロクは言われるままに拾い集めて、両の手の平の上に広げて見せる。



「まずはスリングショットの基本として、真ん中のゴム部分に合わせて小石を当てて、上空に向けて撃ってみろ」

「はい……」



 エーコは緊張しながら小石を摘まみ、ゴムと一緒に引っ張る。



(どこまで伸びるの……)



 左手で本体を持ち、右手でゴムを引っ張っても、腕が伸びる範囲まで無理なくゴムが伸びるだけでなく、本体の方はまったく撓らない。



(狙いがつけやすいけど……)



 ゴムが伸び切らない。引っ張れば引っ張るほど、どこまでも伸びるかのように、ゴムの抵抗を感じないのに、支える左手への負荷は限りなく少ない。



「それでいい、右手を放してみろ」



 エンゾーの言葉を信じ、エーコが手を放すと、右手にあった小石はゴムと一緒に上空高くまで飛んだ。



「なにこれ……」

「うわあ~、たか~~~~~~~~~い」



 口をあんぐりと開けて、飛んで行った小石を見つめるシロクとセレナだったが、エーコは指先に残る違和感が気になって手元に視線を落とす。



「本体はアラクネロイトーの強固な体だから、どんなにやっても撓らない。ゴムは元に戻る力が強いゴムゴブリンのものだ。だから、普通のゴムのように限界まで伸ばさずともあれだけ飛ばせる。そもそもゴムを目一杯伸ばすと、それだけゴムの消耗が激しいからな。それを回避する意味もあるが、ゴムゴブリンの棍棒と違いそれは薄く伸ばしてあるので刃なんかには弱いから気を付けろ」



 手が届かない距離まで引っ張ることはできても、他の力が加わると簡単に切れてしまう恐れがある。

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