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「シロクさん」
武器屋街に戻る途中、正面から歩いてきた二人組の男に声をかけられた。
「あ! えーと」
(この人たちもシロクくんの知り合い?)
先ほどのおじさんのこともあるので、共通の知り合いの可能性を加味して、必死に記憶を手繰るが、セレナの中に二人の姿はなかった。
一目見て目立つ細身の男と、筋肉質の男。
いかにもチンピラといった風体の二人組だ。
そんな二人が、シロクを前にして腰を低くして、手を揉みだし、明らかな低姿勢を見せた。
「おはようございます。シロクさんは討伐チームに参加しなかったんですか?」
細身の男が問うと、
「馬鹿言え! シロクさんのような強者はパーティーなんて組む必要がないんだ。あんな連中がいるのは邪魔ってもんだ。ですよね?」
筋肉質の男が笑顔で問うと、
「僕、パーティー組んだよ」
「ほら見ろ! シロクさんはパーティーを組んだんだ!」
ごん、という鈍い音をさせて筋肉質の男が細身の男の頭を殴った。
「なんで俺が……」
細身の男は頭を押さえて、涙目で苦情を零し、フードを目深に被った少女に気づく。
(もしかして、あのカツアゲ失敗した子……じゃないよな)
「あの、そちらの方がお仲間ですか?」
「うん。まだ正式なパーティー仲間じゃないけど、セレナも今回一緒に塔に行く約束してるんだ」
「へえ、まだいるんですか?」
「うん! エーコさんっていう有名な人」
細身の男が筋肉質な男――かつては交渉役と暴力役の男は互いに顔を見合わせる。
「ああ、あの仲間を失った……」
それで今はシロクと組んでいるのか、と思うと納得できる部分がある。
ハイスとトーレの実力はそこそこあったが、シロクは塔内部での様子を知らなくても、とんでもない力を持っていることが二人にですらわかる。
(この間、飲み屋街で叫んでいたエーコは、新しい仲間を見つけたのか)
細身の男のタイプではないが、エーコは有名人だ。新人ばかりをカモにしてカツアゲ紛いなことをしていた二人にとって、有名な塔破者の名前は自然と覚え、誰と誰が組んでいるのか、誰がどこのギルドに所属しているのかわかるものだ。
「そういえば……。フードの彼女は、確か、あそこの……」
細身の男が、顔を見せないフードの少女を見て記憶の奥底に眠るなにかと結びつけようとするが、情報がありすぎるため、派手な成果を上げていない塔破者の記憶はおぼろげになってしまうのは仕方がなかった。
フードの少女・セレナは細身の男の値踏みするかのような逸らされることのない視線に気づいて、シロクの背後に体半分隠した。
「シロクさん、死なないでくれよ!」
筋肉質の男に真正面から激励されて、セレナは驚いた。
とてもそんなことをしてくれる男には見えないからだ。
「うん、僕は勇者になるからね!」
「よっ! 未来の勇者様! その暁にはいっぱい稼がせてもらいます!」
二人には、塔を攻略し勇者となったシロクをネタにして、またカツアゲ紛いなことを着々と計画していることなど知る由もないが、それが上手くいくのかどうかは、まだまだ先にして、まったく別の話。




