06
「ところで、シリリィだっけ? きみは何者なの?」
「んー? シリリィはシリリィだよ?」
エーコだって自分が何者かと問われれば、同じように答えたかもしれない。
どうやって訊くのが正しいのか考えるも、なにかを訊きたいわけでもないことに気づく。
ただの社交的な会話。
「私は塔破者のエーコ。シロクくんの友達ならよろしくね」
「うん、エーコ。覚えた。あたしも塔破者になるの」
「そうなんだ」
(最近の子はすごいわね……)
しかし話を聞く限りでは、まだその資格を持っていないことはわかるが、シロクの知り合いだ。
魔法銃使いのセレナという女の子のこともだが、このシリリィにも底知れぬなにかがあるのだろうか――そう思わざるを得ない。
「エーコは、いい人だね。本当のことしか言わない」
「本当のこと……? まあ、そうよね」
変な言い回しに疑問を抱くものの、よく噛み砕けばそのままの意味だ。
(なんだか、この子と話していると不思議な気分になるわ)
外見の年齢はシロクと同い年ぐらいの子供に見える。背丈もシロクと同じぐらいだが、そうやって比べてみるとシロクは少々小柄かもしれない。
そんなことを幼い子と比べて実感していると、エーコは虚しさを覚えた。
(私もいい歳なのに……)
それなのに、と胸中で呟いて、汗だくの店主の作る麺を瞬く間に平らげて行くシロクを見て、変に意識してしまう。
(こんなに歳の離れた年下の男の子に……)
「エーコはシロクのこと好き?」
「うえっ!?」
考えていることを読みあてられて口から心臓が飛び出しそうになった。
「え、そ、それは……。私とシロクくんじゃ歳が離れすぎてるし……」
いくら塔破者の資格を持っているとはいえ、まだ子供にしか見えない。
背丈や顔つきだけでなく、筋肉のつき方もまだまだだ。
言い訳はいくらでもできるが、言葉にならない言い訳は誰のためのものだろうか。
「嘘じゃないけど、変なの。好きなら好きってあぶむっ」
「わーわー!」
シリリィの口がエーコの手で塞がれるが、一対一の勝負に興じていた店主とシロクは、エーコの悲鳴めいた叫びを聞いて、揃ってそちらを見た。
「俺の作った麺を吐こうってんじゃないだろうな」
「な、なんでもないの! 二人は続けてて」
「もう材料切れだ……」
鉄板に残る最後の一本までシロクは箸を伸ばして啜っていく。
「ごちそうさまでした!」
エーコは一パック、シリリィは三パック分ぐらい、シロクはどれだけ食べたかわからないが、値段を見る限りエーコの所持金でどうにかなりそうだ。
「おいくらですか?」
エーコはシリリィを解放して、食事代を支払おうと麻袋から残り少ない金を名残惜しそうに出そうとすると、
「いや、いいんだ。この坊主には、俺がご馳走をしてやるって約束してるんだ。でも、そこの塔を誰かが攻略するまでだから」
まだ三日目だが、下手をすれば明日辺りには赤字になりそうな食いっぷりで、肝が冷えて仕方がない。
「じゃあ、僕がするよ」
「そしたら、無料では食わせないぞ」
「でも、そこをクリアすると大きなライスタワーが」
そこまで言葉にしてシロクは開いた口をそのままに思い出す。
「セレナにライスタワー預けたままだ!」
しかし満腹状態では、シロクの動物並の嗅覚でもセレナの位置を探り出せないし、なにより塔内部でできたのは、他に人間がいなかったからだ。
「明日会えるかな」
「シロクくん、明日は絶対に塔に入っちゃダメよ!」
「ええー」
「当たり前でしょう。頭をケガしたんだから、一日は安静にしてちょうだい。なにより、武器がないんだし」
怒られ不満顔を見せるシロクだったが、エーコも肝心なことを忘れていたことを思い出した。
「そうだ、早く塔破者を募らないと!」
店主はエーコの言葉に多少の疑問を抱くものの、材料が空になって商売ができないために屋台の片づけを始めていた。
「この時間にここに塔破者がいないとどこにいるのかわかりますか?」
エーコが店主に訊ねると、店主は自分の後ろを親指で指した。
「あっちの飲み屋街にいるぞ。あっちは武器屋街に近いし、なにより……」
歯の奥に物が詰まったような物言いに、エーコはなにがあるのか興味を示すが、視界の隅ではシリリィがシロクに別れを告げて、明日の再会を約束していた。




