01
母は、いつも褒めてくれた。
父も、いつも褒めてくれた。
友達は、いつも褒めてくれた。
師匠も、いつも褒めてくれた。
シロクは夢を見た。
塔破者を目指すきっかけを与えてくれた人たちの笑顔。
みんなが笑い、みんながシロクに期待を寄せていた。
どんなに辛い訓練でも、どんなに辛い特訓でも、笑顔でいると誰もが褒めてくれた。
初めておもちゃの木剣を持たされ、初めて組手をした時、負ければ怒られた。
でも、勝てば褒められた。
負けて泣くと怒られた。
勝って笑うと褒められた。
負けて笑うと怒られた。
だから笑った。
笑えるように強くなった。
なんで強くなりたかったんだろう?
なんで褒められたかったんだろう?
理由は簡単だ。
そうすればみんなが笑ってくれるからだ。
自分が笑えばみんなが笑う。
笑えばみんな幸せになる。
笑っていれば、みんなが自分を必要としてくれる。
だが、自分に関係のない大人たちは言った。
「あの子はいつも笑っていて気味が悪い」
「あんなことがあったのに笑っているなんて、頭がおかしいんじゃない」
「笑う以外の感情を失っちゃったのよ」
そんな雑音が耳に届いても、シロクは笑った。
「なんで?」
幼いシロクはそう訊ねると、シロクの笑顔を否定するかのような言葉をぶつけてきた大人たちは、恐ろしいモンスターでも見たかのようにおびえた顔をして逃げていった。
「ねえ、なんで僕が笑うと変なの?」
師匠に訊いた。
すると、師匠は笑ってシロクの頭を撫でた。
「変なことはないよ。シロクが『なんで?』と疑問に思うことも、なにも悪いことはない」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ。知らないことを知ろうとする欲求は正しいことだ。教えてくれる人がいたら、その人のことは大切にするんだよ」
「うん! 師匠と同じだね」
「そうだね。私は、シロクが立派な塔破者になれるように、いくらでも力を貸すよ」
「わーい」
「だから、シロク、きみはいつも笑っていなさい」
「うん!」
木剣を大事そうに抱えたシロクは、幼さの残る笑顔を師匠に見せた。




