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 すでに昼時はかなり過ぎていた時間だと、塔の外に出たセレナは太陽の位置から読み取った。

 そんな太陽の光から目を守るように、手で庇を作って空を見上げていると、実感がこみ上げてくる。


「私、生きて出てこれたんだ」


 バッグの中には、十分過ぎる収穫があり、人生で二度目の塔への挑戦にしては満足すぎる結果と言えるだろう。

 体は、今すぐにでも休むことを求めてきているが……。

 セレナは塔を振り返って入り口を見る。


「ごめんね、シロクくん。私はきっと、こういう生き方しかできないんだよ」


 人のいいシロクを騙して、塔の中に置いてきて自分一人で出て来てしまった。


 シロクが無茶をするのは知っていたし、どうにかできるとも思っていた。


 だからあそこで怒鳴る理由など、本当はなかったのかもしれない。ただ黙って一人で引き返せば、それでよかったのかもしれないが、ちゃんと言葉で伝えたかった。


 それが嘘であっても。


 優しすぎるシロクと一緒にいると辛い。


 一緒にいればいるだけ、どんどん希望という言葉に縋ってしまいそうになる。


 だから、嫌われる必要があった。


 今までなら自分が今日を生きるために犠牲としてきた他人になど、微塵の興味も示さなかったが、彼だけは――シロクだけは、セレナの胸のどこかに引っかかって取れずに留まり続けている。


 その胸の閊えを取り除くために、シロクの歩む未来とは雲泥の差のある世界、真っ暗で陰湿な世界へとセレナは戻らなければいけない。


 太陽のように明るく強いシロクの近くにはいられないから。


「……グルリポとなんて、出会わなければ」


 その名を口にして、セレナは今すべきことを思い出す。


「銀行に行かなきゃ」


 手元に現金にすぐに換えられる魂脈を持っていては、ギルドのリーダーにありったけ奪われてしまう。それならば現金で最低ノルマの一日一万ゼンを渡す方が安全だ。


「そもそも、リーダーなんて怖くないんだ……。あいつは頭悪いから……」


 昨夜のことを思い出すと涙が零れそうになるぐらいの恐怖が蘇るが、いつだってリーダーに助言をしているなにものかがいるのだ。


 誰であるか、直接確かめられたことはないが、それが誰であるかはわかっている。


 初心者を助けるという名目で色々と教えてくれて、心を許してギルドで安全に塔破者を続けられるという甘い言葉にのせられて、簡単にひっかかってしまった。


 セレナだけでなく、他の若い塔破者をどんどん加入させては、犯罪をさせてでも一日一万ゼンのノルマを達成させようとしている外道――その男の名はグルリポ。


 セレナはその名を、貌を思い出す度に歯噛みするしかない。


 力でも、魔法でも、頭でも、なにをもってしても勝てる術がないのだから。


 今だって、どこかで見張られて根こそぎ戦利品を奪いに来るのではないかと心臓が委縮してしまっている。


「急ごう……」


 バッグを揺らしながら、セレナは銀行へと走った。

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