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05

 人気のない、広場の石段で食事を摂るシロクとシリリィ。

 シリリィは口の周りを汚しながら二パック食べ、残りは全部シロクが事もなげに平らげた。


「ぷはぁー、おいしかった。ごちそうさまでした!」

「ごちそーさまでした」


 シロクを真似て言うシリリィだったが、普段よりも一パックあたり大盛りだった麺は、シリリィの胃には少々重すぎた。


「シリリィは今夜、どこで休む予定なの?」


 小首を傾げるシリリィを見て、シロクは頭を切り替えた。

 答えを求める問いをしても、期待できるものは何一つとして返ってこないのなら、この場の空気を悪くしないため――明るく楽しいことが大好きなシロクは笑顔を見せた。


「僕がなろうとしている勇者はね、あそこを目指してるんだよ」


 広場の向こう――なにかの倉庫と思われる建物の向こう側に立つ、天まで届くかと思いそうな、この一帯では一番背の高い建物を指差す。


「……うごいてる?」


 じぃーっ、と目を凝らしたシリリィは疑問のように口にすれば、シロクは頷く。


「あれがモンスターのいる塔。生きた塔なんだ」

「歩くの?」

「歩きはしないよ。僕たちの足元にはね、人は入ることができない地下迷宮が広がっていて、たくさんのモンスターが住んでいるんだ。そこと繋がっているから塔は動けないんだよ」


 シリリィは足元を見るが、そこは綺麗な石畳だ。


「国や都市は地下にモンスターが住む迷宮の上に、町を造ったんだ。それでモンスターの出てくる穴を塔でフタをした」

「なんで?」


 今の世界は、モンスターの出てくる穴はすべて国や大きな都市に管理されている。

 モンスターは地上に住む人に多大な迷惑をかけ、時には命すら奪っていく。

 それに業を煮やした人間は、地下にいるモンスターを掃討しようと、腕自慢の人間を送り込むものの失敗した。

 地下は複雑に入り組んだ迷宮となっており、簡単には攻略ができない。

 その要因の一つが、迷宮に入る度に、道順が変わっているのだ。

 まるで迷宮そのものが生きているかのように一部の壁は心臓が鼓動をするように脈打っている。

 なぜ、迷宮が一人でに変化するのか――それは迷宮が生きていて、強い魔力を持ったモンスターがそこを通った時に、生きた迷宮はモンスターの影響を受けて姿を変える。

 そのため、どんなに部隊を送り込もうとも、分散せざるを得ず、強いモンスターに出会えば満足に動けずに簡単に殺されてしまう。

 それを阻止しつつ、人の生活を脅かさないために作られたのが、穴を塞ぐ塔である。

 塔の内部もモンスターの住む迷宮の影響を受けて、脈打つように生きた迷宮となってしまったのは誤算だったのだろう。

 この変化は副産物に過ぎないのだから。

 地下に広がる迷宮から、上に伸びる迷宮と変わり、強敵が無数にいる地下迷宮ではなく、限られた数しか存在しないであろう塔の迷宮で、実力者たちを育てるシステムを作り上げた。

 そこに挑む者を、塔破者と呼び、すべてを塔破すれば、伝説の中と同じ存在、勇者と呼ばれるようになる。


「わー」


 ぱちぱち、とシロクの説明を一通り聞いていたシリリィは手を打つ。


「僕も知らないことが多いんだ。外側から一つずつ攻略して、実力をつけていかないと、中心にある強いモンスターのいる塔には入れないんだって」


 塔の中のことは知っていても、塔に入るために必要なものが塔破者の肩書きであることを知っていても、そういう仕組みになっていることまでは知らなかった。


「あたしも、なる! とーはしゃ、なる!」

「簡単にはなれないよ。不定期に開催される『新米勇者候補決定戦』っていう試験で一番にならないといけないからね」


 次にいつあるのか、どのぐらいの頻度で行われているのか、関係者以外には一切伝えられることはなく、観覧席に集まる観戦者にだって知らされない。それでも千人は簡単に集まってしまうのだから、噂を聞く耳さえあれば、志望者はその場のノリで参加できる。


「次がいつか、誰にもわからないんだ」


 ぶすぅー、と頬を膨らませて不満を隠さないシリリィ。

 困ったように後ろ頭を掻いていると、シリリィは石段から飛び降りた。


「あたしも、いつか、とーに行く! シロクに追いつく! そしたら一緒にあそぼ?」

「うん、いいよ。僕は僕で、しっかりと実力をつけて内側の塔を攻略するよ。お金稼がないといけないし」


 シリリィは理解しているのか、それともわからずにただ頷いているのか、笑顔を見せた。


「ばいばーい! ごちそーさまでした!」


 ぺこり、とシロクと同じように深々と頭を下げて、貌を上げた時には満面の笑みで、シリリィはシロクが声をかけるよりも早く、暗闇に包まれた町の中へと吸い込まれるようにして消えて行ってしまった。


「まあ、いつかまた会えるよね」


 今日は優しい人にたくさん出会えたな~、などと夜空に浮かぶ星空を仰ぎ見ながら、しばらくの間、シロクはその場で夜風を楽しむように、今日という日と昨日までの過去を思い返していた。


「宿、どうしよう~」



 残金 三万ゼン――。

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