07
セレナはかつて、他の塔破者とウルルフの五匹の群れと戦ったことがある。
それは仲間と呼ぶには不自然で、セレナにとってはパーティーを組んだだけの他人だった。
大人の男たち四人は、それぞれに大きな武器を担いで塔に入り、セレナはギルドのリーダーに指示されて、その四人と一緒に入った。
彼らは単純に強かった。
真正面から迫ってくるウルルフに怯えることなく、大きな武器を振り回して一刀両断。
瞬く間に四匹を殺し、最後の一匹として残ったのがメスだと誰かが教えてくれた。
そう、まるで俺たちと同じようにな、と彼らは声高に笑ったが、チームワークなどまったく感じないとセレナはすぐに感じ取る。
残った最後のウルルフは、四匹のオスを失って逃げるのではなく、多勢に無勢であるにも関わらずメスなのに男らしく立ち向かってきた。
モンスターとして、動物として、その本能が敵わない相手だとわかっているはずなのに、メスのウルルフは、四人に立ち向かった。
それに向き合う四人の男たちは、誰が殺すのかということで競いだし、モンスターには無傷で勝ったのに、ケンカを始めた。
問題はあったものの五匹目のウルルフを倒したことで、五人の即席パーティーの最初の戦闘は勝利で飾れた。
それを見たセレナは少しだけ安心した。
一人一万ゼンのギルドへの納金義務。
五人で塔に入って、五匹のウルルフを倒して、五万ゼンの稼ぎ――これで問題なし。
そのはずだったのに、誰かが言った。
「この五匹目の魂脈を誰のものにするか勝負だ」
「望むところだ!」
モンスターが跋扈する塔の中で、男たちは仲間割れを始めた。
「あの、五人なんだから五個でちょうどいいんじゃ……」
怯えながら至極正しいことを口にするセレナだったが、返ってきた言葉は非情な一言。
「戦っていないお前に、なんで分け前を渡さなければならない」
初めての塔。
初めてのパーティー。
初めての本物の戦闘。
その恐怖で押しつぶされそうだったセレナに襲い掛かる本当の恐怖。
それは人間。
四人の男たちがモンスターに向けるのと同じような鋭い睨みを、今まで一緒に戦っていた仲間に向け、遠慮のない攻撃を繰り出す。
『新米勇者候補決定戦』では木剣だったので、誰も死ぬこともなく、ケガをしても軽傷、流血をしたのだってウルルフにやられた人たちだけ。
「これが塔の本当の姿なの……?」




