10
夜空の黒さを確かめるように、食後の休憩を取っていると、
「シロク、あたし帰るね」
「送って行こうか?」
「一人で行ける! ううん、一人じゃないと行けないの!」
「そうなんだ。気を付けてね」
「シロクも気を付けてね。塔にはこわ~いモンスターがいるんだよ」
はは、とシロクは笑う。
「知ってるよ。それより僕は知らないんだけど、闘技場での『新米勇者候補決定戦』はいつあるのか、シリリィは知らない?」
「知らないよ。でも、いつかあるよ」
「それで優勝したら、一緒に塔に行こうね」
「うん、行く!」
シリリィの運動能力の高さはシロクが認めるほどだ。
どことなく自分と似たセンスを感じる。
本気で組手をしたら、どうなるかわからないというワクワクした気持ちすら、シロクの胸の底には眠っている。
「じゃあね、シロク! 明日も来るね!」
「僕はだいたいこの辺にいるから」
「ばいばーい」
「ばいばい」
シリリィは大きく手を振って、走り出すものの、シロクの視界の中で動きを止めて、倉庫に使われている建物の向こうを仰ぎ見た。
シロクもつられて見れば、そこには塔がある。
朝だろうが夜だろうが、目を凝らしてみれば、左右にうねるように揺れている。
「そういえば中に入ると揺れている感じはしなかったな~」
一階部分にしか入っていないせいかもしれない。
シロクもシリリィと同じように、塔を見つめていると、その向こうに半分の月が見えた。
塔の中で採取できる花や鉱石、あるいはモンスターを倒して手に入る魂脈を、魔法のエネルギーにして発電するだけでなく、いつだって頭上に上る月の明かりがあるから、人は夜を恐れなくなった。
だが、その明かりがなにも届かない塔の中はモンスターが活発に動き回る。
元々、光のない暗闇の地下迷宮で過ごしていたのだから、当然と言えば当然かもしれない。
しかしそうなると、なぜモンスターは光を求めて塔を登るのか、わからなくなってくる。
「うん、昨日の場所で寝よう!」
そう覚悟を決めたシロクが視線を落とすと、シリリィの姿は忽然と消えていた。




