05
日が傾き出した頃、鍛冶場で稼働する窯の火が落とされ始める。
鍛冶屋や武器屋、アイテム加工で成り立っている区画とはいえ、職人一人一人が、一つの城ともいえる窯を持っているため、どんなに弟子がいようとも一日中火が入っているわけではない。
「さあ、俺の門番の仕事も終わりだ」
一通り見て回ったシロクが門番をしていたエンゾーのところに戻ると、狭い詰所にいたせいか、体を大きく伸ばしてあくびをしながら、エンゾーが腰を叩きながら出てくる。
「シロク、なにかいい武器は買えたか?」
「そのうち買えます」
ん、と不思議そうに眉間にシワを寄せたエンゾーだが、深くは訊かなかった。
「おい、弟子ども。各窯元に行って、火元のチェックと武器の管理、戸締りをしっかりするように言って回って来い」
はい、と元気な返事をして、たくさんいた弟子たちはいつもの戸締り仕事をするために各々走り回る。
「泥棒いるんですか?」
「いないとも言えないな。この柵の内側で生活をしている職人は何人かいるが、ほとんどの職人は外に家を持ってる。ここじゃ熱が篭っていて、暑くて堪らんからな」
「なにを盗むんですかね? 僕、色んな武器見ましたけど、自分に合うのありませんでした」
「盗むんなら魂脈とか素材とか、完成したアイテムとか、そういうのじゃないか? 泥棒なんて出た試しがないけどな」
自分に合う武器や防具をオーダーメイドで作ってもらうのが基本だ。既存の物を盗んだって、自分には合わない。シロクもそれを痛感した。
「僕からお金を盗もうとしたの誰なんだろう?」
あのフードを被った女の子――シロクにはフードで隠そうとも、しっかりと同じぐらいの年齢の女の子であることがわかった。
だが、なぜ狙われたのかはわからない。
「お金かな、やっぱり」
食べ物が狙われなかったのは不幸中の幸いかもしれないぐらいにしか、シロクは思っていなかった。
「じゃあ、また今度来ますね。僕、宿屋探さなきゃいけないんで」
「おう。また近いうちに来い。俺の作業場は、誰かに訊けばすぐにわかるからな」
「はい!」
シロクはお辞儀をして、背中を向けて立ち去っていく。
「さてと……エンピがなにを学んだか、聞きに行くかな」
同年代のシロクと出会えたのは、エンピにとっても良い出会いになっただろう。
あれだけの向上心と自信の塊だ。
塔破者に誰もが憧れ、その恐怖に屈した子供たちが、それでも塔破者や勇者への憧れを捨てきれなければ、鍛冶屋に弟子入りをして、塔破者たちの持つ武器を作る。
一緒に塔に入れなくても、自分の作った武器が塔を攻略してくれれば、それだけで誇りになる。
現実的に仕事の依頼が増えて金儲けもできるが、塔破者に憧れた鍛冶師は決まって大きな夢の方に重きを置く。
だから、真正面から勇者になるなどと言う馬鹿な塔破者には、つい力を貸してしまう。
「俺も、懐かしいよ。シロク、エンピ」




