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02

「――で、このお店では青銅の武器や盾が作られているんです。職人ごとに得手不得手がありますので、そういう情報はしっかりと仕入れてから頼んだ方が、失敗もないですし、職人も気持ちよく仕事をしてくれます」


 グルリポから聞いた話と重ね、復習するようにエンピの話を相槌を打ちながら聞いた。


「ちなみに僕や僕の師匠であるエンゾーさんは、魔法でブーストした武器を得意としています。少々値は張りますし、必要な素材も多く、作成するのに時間がかかるのですが、エンゾーさんの話では、この国で一番攻略が困難とされている一番内側の塔を、最上階寸前まで行った塔破者が持っていた武器を作ったとされています」


 柵の外と同じように、得意げに話すエンピは楽しそうであり、自分の師匠の実績を自慢することが嬉しそうだった。


「でも、素材もですが、魔法ブーストをつけると、ただの武器よりも魔法の媒介となる塔内部で拾える花や鉱石なんかの魔力の宿った消耗品が必要なんです。もちろん、モンスターから得られる魂脈でも可能ですけど……正直、魔法ブーストってお金を飛ばすようなもので、使えば使うほど、お金がかかっちゃんです」


 ゴムゴブリンを倒した魂脈でさえ一万ゼンという大金で買い取ってもらえるのに、魔法ブーストの武器を持てば、そういう魂脈のような強力なエネルギーが必要となる。

 その燃費に見合うだけの強いモンスターを効率よく倒さなければ、赤字だろう。


「だからエンゾーさんのところには僕以外弟子がいないんですよ。一番強い武器! ……そう思っているんですけど、今は国も大きくなって、魂脈を生活のためのエネルギーとしてたくさん使うせいで、もっと効率的な武器に人気が集まってしまっているんですよ」


 嬉しそうにしたり、ガッカリと肩を落としたり、見ているシロクにはエンピは飽きなかった。


「じゃあ、エンピが燃費が良くて、強い武器を作ればいいじゃん」

「そ、そんなの無理ですよ! 無理無理無理!」

「だってエンゾーさんは他の職人を見て学べって言ってたんだから、そうやって魂脈を効率よく使える武器を作っている人がいるかもしれないよ」

「……シロクさん」


 今まで考えてこなかった。

 エンゾーにはいつも他の職人を見てこい、と言われても従わなかった。

 ほとんど客の来ないエンゾーの店にいるエンピのことを気遣って、他の職人を探せと暗に言ってきているものだと思っていた。それは今日も言われた言葉。

 それに反感を示したのは、エンピはエンゾー以外から学ぶ気がなかったらだ。

 しかし、技術を見て盗むということは、昔のままの技術をただ引き継ぐのではなく、自分の世代で、自分の腕で、自分の蓄えた知識を加えて、今の時代に則した武器を、新しく作れるようになれ――そういうことだったのかもしれない。


「シロクさん! シロクさんがよければ、僕の最初の武器のお客さんになってくれませんか? すぐには満足行く武器はできません。まだ僕は満足に鉄を打てないですし……。でも」


 先ほどまでとは違う、真剣な顔を見てシロクはポケットの中から、それを取り出した。


「これを預けるよ」


 シロクはエンピにそれを握らせる。


「な、なんですか、これ?」


 手の平の中にある細長いゴムのようなもの。


「僕が初めて塔で倒したゴムゴブリンから手に入れたモンスターの素材」

「そ、そんな大切なもの受け取れませんよ」


 どんな塔破者だって、初めての記念の素材は取っておくことがほとんどだと聞く。

 思い出もだが、塔破者として慣れてきた時に初心を思い出すため、簡単に眺められるようにアクセサリーにして身に着けたりする塔破者も少なくない。


「ううん。大切なものだから、これで僕の武器を作って欲しい。もちろん、これだけじゃ足りないから、エンピが腕を磨く間に、僕もどんどんモンスターを倒して素材を集めてくる」

「シロクさん……」


 まだまだ初心者同然で、職人とは烏滸がましく名乗ることができないエンピ。


(こんな自分を信頼して大切な記念品ともいえる素材を預けてくれるなんて……)


 エンピは涙ぐみ、洟を啜った。


「わかりました。僕が必ず、シロクさんが持つ最強の武器を作って見せます!」

「うん、僕が素材を集めるか、エンピが腕を磨くか、競争だね」


 エンピとて、幼い頃は例に漏れず塔破者に憧れ、木剣を買ってもらい、勇者ごっこをして遊んだ。

 勇者なんて言うと友達には笑われたが、それでも一番強いものに憧れ、エンゾーの鍛冶屋に弟子入りした。自分に戦う力も勇気がなくても、自分の夢を託せる誰かが、自分の打った武器を持って最強の塔破者、勇者になってくれるかもしれない。

 そんな期待や希望を捨てきれずにいるのだ。


「競争です。シロクさん、あの……」

「うん、いいよ。案内はここまでで。あとは自分で見て回るから。エンピは自分の見たいところを自由に見て来てよ。将来の僕のためにね」


 エンゾーの鍛冶屋が休みなのは今日だけだ。

 武器の注文が少なくても、金を稼ぐために壊れにくい、鍋やフライパンを作る仕事は常にある。エンゾーの作るものは値が張るが、壊れにくいことで有名だ。そのため主婦には人気であるが、それ故に武器作りではなく調理道具作りの鍛冶屋なんて笑われたりする。


「ありがとうございます! たくさん勉強します!」


 深々と頭を下げると、エンピは隅から隅まで、すべての鍛冶屋に顔を出して一つ一つ、職人が腕によりをかけて作った武器や防具を確認して回る。

 いつの間にか、シロクとエンピ、二人の関係が逆転していた――。


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