06
人の多い大通りに立ち尽くしているわけにもいかず、シロクはどこに行くか――鼻を鳴らした。
くんくん。
周囲を行く人からは少しばかり奇異の目を向けられたりしたものの、シロクはそんなことを気にせず、食べ物の匂いのする方向を見つけ出して、迷うことなくそちらを目指した。
野生の獣のような嗅覚で嗅ぎ付けた場所では、夜の歓楽街とは違い、いくつもの店が出ていた。
食べ物を売る店、武器やアイテム、あるいは塔から持ち帰ってきたとされるもの、あるいは塔破者が持っていた伝説の装備――どこまでが本物なのか疑わしいものまで、たくさんの出店が通りの左右を埋め尽くすように並んでいる。
「うまそー!」
シロクが舌を出して反応を示したのは、串に刺した肉を炭火で焼いた店だった。
「ツートリの肉だぞ、美味いぞ!」
「ツートリってなんですか? 美味いんですか?」
「おっ、ツートリを知らないか? ツートリはな塔にいるニワトリ型のモンスターだ。そいつを生きたまま捕獲して、塔の外で捌くことで、この肉はできる貴重な鶏肉だ。そしてタレだって、中級者向けの塔に咲く花から作った特製の――」
得意げに話す炭火焼屋の店主であるが、匂いにつられて食いついてきた客のシロクは、まったく聞いておらず、炭火で焼かれる肉に視線が釘づけだ。
「一本百ゼンだが……」
「百本ください!」
「ひゃっぽ……一万ゼンだが……そんな大金あるのか?」
シロクはポケットの中の札を取り出そうと手を伸ばして、グルリポの話を思い出した。
「お金は大事にしなきゃいけないんだった」
現在の所持金は三万ゼン――。
これから武器なんかも見に行きたいし、塔に入るために必要なものを少しでも買い揃えたい。
「ごめんなさい。やっぱり三本だけください」
「わかった。まったく無茶な買い方はよくないからな」
にかっ、と笑った店主はシロクの腹を盛大に鳴らすほどに、魅力的な匂いと音をさせて、適度な焦げ目をつけて焼いてくれた。
「はい、三百ゼンだ」
シロクは炭火焼を受け取り、一万ゼン札を差し出すと、店主は二度見した。
「……本当に一万ゼンは持ってたんだな。ちょっと待ってろ。釣り釣り」
五千ゼン札一枚と千ゼン札四枚、そして百ゼン硬貨七枚をしっかり受け取り、一枚ずつシロクは確認する。
「ごちそうさまでした! すごく、おいしかったです!」
「ってもう食ったのかよ」
釣りを渡し終えた時には、すでに串に刺さっていた肉はすべてシロクの腹の中に消えていた。
「甘くてしょっぱいタレと、中は柔らかいのに外側がカリカリですごくおいしかったです! また食べたいです!」
「おう。また食いに来い。サービスしてやるよ」
シロクは店主に手を振って、屋台の前から立ち去ると、それと入れ替わりにそんな様子を見ていた数人の客が大挙として押し寄せた。
「すみません、三本ください」
「こっちは五……いや、十本くれ!」
「あんなに美味そうに食われたら、こっちまで食いたくなっちまうよな」
「へ、へい! 少々お待ちを!」
一斉にやってくる客に、大漁に入る注文。
店主は慌てだしたが、屋台の周りには人が人を呼び、どんどん新しい客が集まってくる。
「あの坊主の食いっぷりは……すごい集客力だな」
今度来たら、礼をしてやらないとな。
そう胸に誓う店主であった。




