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伝説のスナイパー  作者: まこと
98/162

No.98

腰元 絹江の訪問に備え、スナイパーは8畳一間の部屋を忙しなく行き来し、室内のレイアウトや掃除に勤しんでいた。

テーブルとベッドとテレビしかない殺風景な部屋なのだ、今更何をどう変えようと殺風景な印象は拭えない。

今までスナイパーの部屋に、女が訪れたことはただの一度もなかった。

スナイパーという特殊な職種も手伝ってか、恋人を作る機会に恵まれず、その屈折した欲望を常に娼婦で解消するしかなく、舞台は場末のモーテルと決まっていた。

そんなスナイパーが、今宵初めて自室に女を招き入れるのだ、浮き足立つのも無理はない。

先日、葛原に誘われ赴いた合コンの場で、可憐な少女絹江と出会い、その弱々しくも脆い中に女としての逞しさを兼ね備えた一面に心惹かれた。

途中、希代の美少女・琴江の出現により、十人並みの絹江の存在が疎ましく感じられたが、その純真無垢な優しさに吸い寄せられ、離れることはなかった。

そして合コンの日を境に、スナイパーと絹江は幾度も逢瀬を重ねた。

娼婦としか関係を持ったことのないスナイパーにとって、絹江との逢瀬は新鮮そのものだった。 ファーストフード店での他愛のない会話、ゲームセンターでは、プリクラを撮ってはしゃぎ、筋肉関連の雑誌を見て批判をする。

スナイパーは、青春時代に味わうことの出来なかった思い出を、取り戻そうと必死に足掻いていた。

「ピンポーン!」

「おっ! 思ったよりもずいぶん早かったな」時計を見やる。 午後4時26分。

絹江が訪問するのは午後6時のはず・・・ まさか、警察関係者か!

己の危機を感じ取ったスナイパーは、懐に右手を這わす。

銃がないっ!? そうか! クローゼットの中だったか・・・

国会議員襲撃計画が失敗に終わり、葛原と遊び呆け、平和を感受する日々。 再びの襲撃計画に備え、象山院警護班の動向を偵察していたのだが、今ではそれすらも怠っており、銃も戦闘服もズダ袋に入れ、クローゼットの奥底にしまい込んでいたのだ。

物音を立てず、扉に近づきドアスコープを覗き見ると、夏服に身を包んだ絹江が買い物袋を携え立っていた。

ふぅ、思わず安堵のため息が漏れる。

緊張が嬉しさに変わり、扉を開ける。

「ジミーさん、ごめんなさい。 ちょっと早く来過ぎたかしら?」

「よく来てくれたね! 絹江ちゃんなら、いつでも大歓迎さ。 ん、その袋は?」

「夕食に何か作ろうと思って食材買ってきたの。 迷惑だったかな?」

「ううん、ありがとう、すごく嬉しいよ! ささ、上がって」

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