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伝説のスナイパー  作者: まこと
96/162

No.96

「そ、それは琴江ちゃんが・・・ き、貴重な体験だからって、ぼ、僕を囃し立てたんじゃないかっ」

苦痛に喘ぎながらも、自身の置かれている立場を、明瞭に理解し始めていた。

「わいせつ罪で捕まった人の末路は酷いものよ。 薄暗い取調室で、強面の刑事からは厳しい尋問を受け、雑居房ではイジメの毎日、心休まる暇なんてないのよ。 あなたみたいな人は、格好のターゲットにされるでしょうね。 そして出所しても、世間からは白い目で見られ、親戚縁者からは絶縁される。 今の惨めな生活が、更に惨めになるのよ。 よく考えて物をいった方がいいと思うわ」

世間にどう見られようと一向に構わないが、両親からの仕送りを充てにしている椎名にとって、ライフラインを断ち切られるのは死活問題に関わる。

「あいにくこの部屋には、防犯カメラの類は設置してないし、道江の非を証明する証拠がないのに対して、あなたが道江に股間を蹴ってくれと哀願したことを証明する人間は、六人もいるわ。 不利なのはどちらかしらね? それに見た限りでは、幸い睾丸も潰れてない。 道江が手加減してくれたことに感謝しなさい」

「そうよ、人様に股間を蹴らせといて、お礼の一つも言えないの? こっちは潰さないように蹴るの、大変だったんだからね!」

最早、この空間に秩序など存在せず、あるのはただ弱肉強食のみ。 強き者が支配し、弱き者を駆逐する。

そんな混沌とした世界の中、弱者・椎名はスケープゴートとして祭壇に祭り上げられ、晒し者にされたのである。

「み、道江さま、こっ、股間を蹴っていただき、あ、ありがとうございました・・・」

四面楚歌の中、椎名が涙と涎を垂らしながら屈辱に耐え、土下座をする。

「それなのに恩を仇で返したことを深くお詫びします、は?」

琴江が謝罪の言葉を選別し、椎名に促す。

「そ、それなのに、恩を仇で返したことを、ふ、深くお詫びします・・・」

ここに「椎名ルール」を導入した、真の王様ゲームが完成したのである。

発案者である葛原も、満面の笑みで椎名を見下ろしていた。

「みんな、もう椎名さんを許してあげようよ。 彼も魔が差しただけで、本気で道江ちゃんを犯罪者にするつもりはなかったんだよ」

「ふんっ、そんなのどうだか分かったもんじゃないよ! このデブは自分が助かりたい一心で、人を平気で裏切る最低な奴だからね、まったく!」

琴江による椎名を追い落とす為の奸智は、民衆の心を掴み、全会一致で椎名が悪人のレッテルを貼られることとなった。

椎名が身を挺してまで温存しておいた貴重な施行限度数を発動させぬまま、アバンチュールな合コンは幕を閉じた。

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