No.95
さて、そろそろ起こしてやるか。
「椎名さん、大丈夫ですか? そこのソファに横に、なった方がいいですよ」
葛原が見せ物として、大いに役立った椎名に手を差し伸べる。
本来ならば、足蹴にしたい所であったが、皆の手前辛うじて堪えた。
「だっ、駄目だ・・・い、痛くて動けないよ・・・」
「そのまま放っておけば、次第に動けるようになるんじゃないか? 無理に立たせると危ないかもしれないぞ」
スナイパーには、椎名に対する哀れみの気持ちなど毛頭なく、ただ床に這いつくばり、悶絶する姿を見ていたいだけなのだ。
「それもそうですね」あっさりと引き下がる。
「しかし、あんなデブを、一発で倒しちまうなんてねぇ。 男は股間を蹴られると、こんなにも痛いもんなのかね?」
静江が悶絶している椎名に、好奇心溢れる眼差しを向ける。
「そんなに強く蹴った覚えはないんだけどな。 もしかして、みんなに構って欲しくてお芝居してるんじゃないの? だとしたら、下手なお芝居だよね」
加害者であるはずの道江が、被害者である椎名を糾弾し始める。
「痛いと思うよ、きっと。 だって、あの人泡吹いて悶絶してるくらいだもん。 でも気の毒だけど、何だかあの姿見てると笑えてくるね」堪らず絹江が吹き出す。
「そうね、洋の東西を問わず睾丸に関する拷問は、数多くあるわ。 それほど男にとって、睾丸は一番の急所になっているのよ」
琴江が椎名を見下しながら、拷問に関する知識をひけらかす。
葛原は少女達の認識不足な会話を聞きながら、一人ほくそ笑んでいた。
ふっ、何を今更。 金的を蹴られれば誰だって痛いに決まってるだろう。 その年になるまで知らなかったとは、実にめでたい連中だ。
だが、琴江に限っては、それなりの知識を有しているようである。
「だ、誰か、お願いします・・・きゅ、救急車を、呼んで下さい・・・」
「駄目よ、それは出来ないわ」琴江が椎名の哀願を却下する。
「救急車を呼んだら、警察の介入も否めない。 そしたら道江が傷害罪で連行されるのよ。 あなた、いいの? 前途洋々の若者を、司法の手に渡して? 前科者になるのよ」
「えーっ、あたし捕まっちゃうの?」
嬉々として椎名の股間を蹴り上げた道江だが、警察の介入までは考えていなかったようである。
「そこは大丈夫よ、心配しないで。 あなたは道江に、自ら股間を蹴れといったでしょう?」
「そっ、そんなこと、いった覚えは・・・」
「いいえ、言ったわ。〝ルール施行を撤回します〟と。 嫌なら、椎名ルールを使えば良かったじゃない。 もしこの事実が知れたら、捕まるのはどちらかしらね?」
残虐非道の琴江が、今まさに姿を現した。