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伝説のスナイパー  作者: まこと
94/162

No.94

「つ、つ使うなって、今使わないで、いつ使うんだよ?」

「いい? 若い女の子に股間を蹴られるなんて、一生に一度あるかないかのチャンスなのよ。 そのチャンスをみすみす逃す気でいるの? よく考えてみて」

椎名の裡に潜む被虐待性嗜好を見抜いた琴江は、最後の施行権を使わせまいと説き伏せる。

この男の股間如き、どうなろうと知ったことではない。 どうせその機能を一生活用せずに、自慰に耽り終わらせるだけ。 いや、もしかしたら、自身の性の捌け口を求め、幼女略取という凶行に及び兼ねない。

ならば犯罪を未然に防ぐ為にも、最後の施行権限は、有意義に使わねばならないだろう。

「・・・し、施行権を撤回します」

「やったー! はい、まずは脚開いて、手を後ろに組んで。 それじゃいきまーす!」

「せいっ!」ドボッ! 道江の小さな爪先が椎名の股間を捉え、深々とめり込ませた。

「きゅっ!」顔を歪ませ、100キロを超える巨体が、股間を押さえながら情けなく崩れ落ちた。

角度、スピード、共に申し分のない「足先蹴り」であった。

「すごい! 蹴った瞬間〝グニュ〟って感触だったよ!」道江が嬉々として状況を語る。

最早道江には、葛原から裏切られたことに対する遺恨は一切残っておらず、あるのはただ異性の股間を蹴った興奮だけである。

「道江、すごいじゃないか! あのデブを一発で倒しちゃったよ。 これからはあんたとケンカも出来やしないよ」

「へへへ、まあね」道江もまんざらではないようである。

「あああっ! く、くく苦しい・・・ 苦しいよぉっ」断末魔の声が、室内に響き渡る。

椎名は周りに何の遠慮もせず、股間を押さえ悶絶している。 ただでさえ醜い顔は、より一層醜悪を極め、涙や鼻水、口泡を撒き散らし、大量の脂汗を流していた。

皆、床をのたうち回る椎名の滑稽な姿を見て嘲笑っていた。

それは葛原とて、例外ではなかった。

こんな地べたを這いつくばるゴミに等しい男が、俺に楯突き、挙げ句に社会的地位まで貶めようとしたのだ、これくらいの報いは受けてもらわねばなるまい。

合コンの余興に催した王様ゲームは、椎名を皆が晒し者にする予定だったが、予想以上に大きな成果を生んだ。

一歩間違えれば自身に降りかかるはずの災難だったが、こうして傍観する立場にいられるのは、神の思し召しを受けたからに他ならないといえよう。

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