No.9
「どうなってんだよ! なんで開かないんだよ!?」
どんなに力強くドアを押しても開かない。
厳密にいえば、開かないのではなく開けられないのだ! 外で誰かが強い力で押さえつけてるのである。 焦ってるスナイパーにはそんな判断力が欠如していた。
「誰か! ここから出してくれーっ! 」
ダァンッ!ダァンッ! 今度は体当たりを繰り返す。 ドアが微かに開いた。 そこで初めて誰かに閉じ込められてることに気付いた。 無駄な労力である。
常人離れしたスナイパーの膂力でもビクともしない。 どんな奴なのかとドアスコープを覗き見る・・・
あの女だ、あの女がドアを押さえつけてる!
「ぎゃあ!」思わず腰を抜かす。
どうしよう・・・どうしよう・・・
フロントに電話して部屋を変えてもらうか?
しかし・・・非常階段の脇部屋。
刺客の襲撃に備え、いつでも脱出できる利点があり、非常階段で襲われても一対多ではなく、一対一で戦うことができる。
今までスナイパーは自分の掟に遵守してきたからこそ生き延びることができた。 ホテルを襲撃されたことも何度かあった。 自らの鉄の掟を守るのはプライドにまで昇華した。
だが、今宵そのプライドはもろくも崩れ去ることとなる。
受話器を取り、フロントに内線を入れる。
プルルル・・・ガチャ。
「も、もしもしっ、もしもしっ」
『あんたのことは絶対逃がさない・・・あたしと同じようにしてやる』
「ぎゃああぁっ!」
すぐに受話器を放り出し、直感した! あの声はゴーストの声だと。
どうしよう・・・なんとか、なんとかしなければ・・・ そうだ、テレビだ! テレビを点けてうるさくすれば、ゴーストも寄ってこないだろう。
安易な考えである。 しかし、困難な事態に直面した。 リモコンのボタンが多過ぎてテレビの点け方が分からないのである。
「ちくしょう! なんでこんなにボタンがあるんだよ!」
どうにかテレビは点いたが、季節はもうすぐ夏。 やっていた番組が『世界の恐怖映像50連発』であった。
やばい! こんなものを流したら、ゴーストがさらに元気になるかもしれない!
違うチャンネルをかけ、音量を高めに設定し、銃を持ってベッドに潜り込んで目をつむる。
「ちくしょう・・・生涯最後の敵がゴーストだなんてシャレになんねぇよ」