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伝説のスナイパー  作者: まこと
88/162

No.88

「はい、まずは椎名さんから歌って下さいね」葛原がリモコンを手渡す。

「えっ、ぼ、僕は別にいいよ。 最近任務が忙しくて、カラオケにすら行く暇がなかったほどなんだ」

弛んだ頬を左右に振り、拒絶の意を示す。

今まで友人にも恵まれず、常に孤独だった椎名はカラオケに行ったことがなかったのだ。 だがそんな椎名にも、唯一歌う機会があった。 それはアニメDVDから流れるテーマ曲だ。 誰の目にも留まらぬと増長し、情けない声を張り上げ、醜く肥った体で美少女キャラクターと共に踊り狂う有様。

そんな男が衆人環視の元、名指しで歌えと要求されたのだ、動揺して当然であろう。

「大丈夫ですよ。 交通調査のバイトなんて、そうそう毎日はありませんから」葛原が事もな気に言った。

「えーっ、交通調査って、交差点の端に座って、車の数を数えるあれだろ? あんた特務機関とか偉そうなこといっといて、情けないと思わないのかい? 」

「ち、ち、違う・・・そ、そんなの、根も葉もないでっち上げだっ!」

「まあまあ、分かりました。 そんなことよりも座ってる順番から、まずは椎名さんが最初ですよ。 その次が静江ちゃん、俺、道江ちゃん、琴江ちゃん、絹江ちゃん、ジミーさんの順で行きましょう」

椎名の話を軽くいなし、歌う順番を決める。

どうしよう・・・ 何を歌えばいいんだ?

椎名のレパートリーは、美少女アニメの主題歌なのだが、その事実が知られてはまずい。 マイナーで、皆に気付かれる心配のない主題歌がベストであろう。


「えーと、これでよしっと」

葛原からリモコンの操作方法を教わり、番号を入れる。

椎名が人前で初めて披露する曲は「掃除婦たき」のオープニングテーマ「紅蓮に焼かれて」であった。

これなら誰にも気づかれるはずない、油断し切っていた椎名に、突然の悪夢が襲いかかった。

50インチ画面いっぱいに「掃除婦たき」の主人公・宮戸 たきが、銅像を磨いているシーンが映し出された。

哀れな椎名は、目の前の画面に曲の関連映像や、ミュージシャン映像、アニメ映像が映し出されることなど知る由もなかったのだ。

イントロが終わり、歌詞が表示されるが、椎名は歌えずにいた。

「こ、こ、これは・・・ な、何で?」

「いいから、早く歌えよ! 自分で入れたんだろ! さっさと歌って引っ込めっ」スナイパーが檄を飛ばす。

「は、はいっ! い、今歌います!」

妄想世界と寸分違わず、スナイパーの怒号に条件反射で答える。

皆の予想通り、椎名の歌声は聴くに堪えないものだった。

情けない歌声は裏返り、歌詞もワンテンポ遅れ、挙げ句にアニメでしか流れない箇所しか歌えないという体たらくぶり。

この男はどこを取っても、負け犬でしかないのだ。

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