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伝説のスナイパー  作者: まこと
82/162

No.82

葛原陣営の異常な盛り上がりとは対象的に、スナイパー陣営は落ち着いた盛り上がりを見せていた。

「あの、ジミーさんの腕、触ってみてもいいですか?」

「ああ、こんな腕で良ければ好きなだけ触ってくれよ」

娼婦を抱き馴れているはずのスナイパーであっても、純粋無垢な少女の要求にはたじたじであった。

「わぁ、すごい上腕二頭筋! 硬い! あたし筋肉質な人大好きなんです。 あと大胸筋も触っていいですか?」言うや否や、胸や背中にも手を出す。

「広背筋も三角筋もがっしりしてる」筋肉の名称を熟知しているようだ。

スナイパーは常人離れした肉体を、触られ殴られ、為すが為されるままである。

なんてかわいい女なんだ。 今まで出会って来た女とは全然違うな。

今まで出会って来た女は、全て娼婦である。 金銭のやり取りで一夜を供にする、言わば生活の糧を得るビジネスなのだ。

成人と偽り、アバンチュールな出会いを求めてやって来た純粋無垢な少女とは一線を画して当然であろう。

神よ! 願わくばこのまま、しばしこのまま時間を止めて下さい!

それはいくら全知全能の神であっても、無理な相談であろう。

時間が止まってしまえば、酸素の流れが停流してしまうことに他ならない。 そしてスナイパーに待ち受けているのは、身動きが取れない時間停止空間状態の中で、窒息死という悲しい結末だけである。

そんなスナイパーの願いも虚しく、居酒屋を出る時間が刻一刻と迫っていた。


「絹江ちゃん、端っこだと狭いでしょ? 真ん中に座ってもいいんだよ」椎名が自身の隣に座れと、要求してくる。

「いえ、けっこうです。 あたしはジミーさんの左側が好きなんです。 そうやって自分から動くだけの度胸もなく、上から目線で人を動かさせようとする姑息でいやらしい言い方をする人は大嫌いです」

年端も行かぬ小娘が、人生の落伍者である椎名に、二度に渡り糾弾する。

最早、椎名は合コンの人数合わせにすらなり得ていない。 いつ姿を消しても誰一人として、その存在を気にする者はいないだろう。


「あ、葛原さんのほっぺに、ケチャップが付いてる。 待ってて、今拭いてあげるね」道江がどさくさに紛れ、葛原の左頬にキスをする。

「ふん! 何さ、あんただけ! 先は越させないよ! 葛原君の横顔セクシーだねぇ」静江も負けじと葛原の右頬にキスをする。

も、もう好きにしてくれ・・・

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