No.81
「そろそろ親睦も深まってきたところで行きましょう! 待ちに待った席替えターイム!」
きゃっ、やだぁ、恥ずかしいったらありゃしないよ、嬉しさの表れからか、少女達の黄色い奇声が飛び交う。
「誰かと隣に座りたい人はいる?」
「あたいは葛原君の隣に座りたいよ」
「あたしも葛原さんの隣がいい」
葛原の隣に座る議席権を巡り、静江と道江がエントリーする。
「えっ、俺でいいの? いやぁ、まさに両手に花だな」
明らかに少女達がエントリーしてくることを、察知していた確信犯的な演出である。
だが、それには様々な布石を敷く行為に余念がない策士・葛原の勝利と言えよう。
だがまだだ。 こいつらが何人集まって来ようと所詮、雑魚は雑魚。 絹江なくして本当の勝利は味わえない。
絹江は、葛原とスナイパーの中では、脆さと逞しさを併せ持つ理想の「女神」と化していた。
その女神が隣に鎮座する、これは勝利を収めた者のみが味わえる至福の瞬間なのだ。
「絹江ちゃんは誰の隣がいい?」
自身の隣に座ることを約束されたかのような、軽率な口ぶりで絹江に問う。
「あの、あたし、ジミーさんの隣に座りたいです」
女神はスナイパーに微笑んだようだ。
な、何ぃ!?
葛原に衝撃が走った。 自身の引き立て役に連れて来た男が、あろうことか一番人気の絹江にアプローチされた。 これは最早、飼い犬に手を噛まれるどころのレベルではない。
「えっ、お、俺!?」スナイパーが驚きの表情で絹江を見る。
「はい、あの、駄目でしょうか?」
「い、いや、大歓迎だよ。 さ、隣においでよ」ときめきの絶頂にいるスナイパーが、絹江に手招きする。
「葛原君と絹江が入れ替わればいいだんね。 さ、葛原君隣においでよ」妙に艶っぽい声色で、静江も手招きする。
かくして静江と道江の間に葛原が、スナイパーの隣に絹江が、そして何の変哲もなく窓際に一人取り残された椎名。 滞りなく席替えが済んだところで、合コン後半戦開始である。
「葛原さんにポテト食べさせてあげる。 はい、あーんして!」
「おや、道江が食べ物をあげるなんて珍しいじゃないか。 よほど葛原君を気に入ったようだね。 これは明日は雪が降るよ」
真夏に雪が降るはずがない。 道江が食べ物を分け与えただけで天候が左右されたのでは、地球規模での異常気象で人類の生存が危ぶまれる。
葛原陣営は本人以外は、異常な盛り上がりを見せていた。