No.8
も、もしかして、ゴースト!?
「ど・・・ど、ど、どうしよう! どうしよう! み、水が飲みたいのにっ」
水道水を飲めばいいだけのことであるが、非日常的空間に放り込まれたスナイパーはパニック状態に陥っていたのである。
もう一度冷蔵庫を開けてみるか? いや、無理だ! まだあの顔がいるかもしれない。 そうだ、フロントに電話して冷蔵庫を開けてもらうか? でも何て言えばいいんだ? 冷蔵庫にお化けがいるから開けてくれだなんて言えるはずがない。
銃を構えながら、もう一度恐る恐る冷蔵庫のドアを開けてみた・・・いない。
あれ? おかしい・・・さっきまでデカい顔のゴーストがいたはずなのに・・・ そうか、今日はいろんなことがありすぎたから疲れてるんだな、きっと。
安堵のため息を漏らしながら、水を飲む。
これが序章に過ぎないことをこの男は知る由もなかった。
午後10時。 コッペパンと魚肉ソーセージでの夕食。 満腹では暗殺者としての感覚が鈍るらしく、必要最低限な栄養だけを摂取して食事を済ませる。
遅めの夕食を摂ったスナイパーは睡魔に襲われていた。 今にも眠りにつきそうである。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!
驚愕したスナイパーはまどろみから覚め、とっさに銃を構える。
誰かが窓をすごい勢いで叩いているのだ。
窓!? ここは五階だぞ! 人が登ってこれるような高さじゃないはず。 窓に近づきカーテンに手をかける。
カーテンを開けることは、狙撃者に自らの位置を知らせる危険な行為だということをスナイパー自身よく分かっているはずだが、目の前の危機を脱するのが優先だと判断した。
カーテンを半分ほど開ける・・・女だ! 窓の外に女がへばり付いている。
「うおぉっ!!」
お・・・女と目が合った!
カーテンの隙間から、女がスナイパーを睨み付けている!
慌ててカーテンを閉める。
「あ、あの女だっ・・・冷蔵庫の女だっ!」
未だかつて直面したことのない危機に晒されている。
怯えきったスナイパーは部屋から出ることしか考えられなかった。 荷物や銃はそのままに、急いでコートを着てドアに向かった。
買い物した荷物や銃は取る余裕すらなかったが、コートを着ることだけは忘れなかったのである。
ガチャガチャ!
ド・・・ドアが開かない!