No.79
「ふっ、証拠ならいくらでもあるさ。 まず君達の肌つや、発育度、仕草、そのどれを取っても成人に満たない。 それでも不十分なら、免許証を見せてもらう事だって出来るんだ」
「肌つや? 発育度? そんないやらしいことを考えながら、あたし達を見てたんですか!? 人間として最低ですね!」
臆病者の絹江が、生まれて初めて報復を恐れずに罵倒する。
「ちょ、ちょっと、ちが・・・」
「男が狼に変身するなら、あんたは何に変身するんだい!? 汚い豚かい? ふざけるんじゃないよ、全く! 何が子猫ちゃん達だいっ! ほんとに気持ち悪いったらありゃしない。 それで今度はバッグの中も漁るつもりかい? いい加減にしておくれよ」
卑怯者の静江は、相手を罵倒しながらも弱味を巧みに突く行為に余念がない。
「だ、だから違う・・・」
「料理も食べずに、ニヤニヤしながら自分の手元にずっと置いとくなんて意地汚い人ねっ!」
大食漢の道江は、自身へ料理が回って来なかった憤りを椎名にぶつける。
「ち、違うんだよ君達・・・」
未成年であることを椎名やスナイパー以外に指摘されたなら、たちどころに狼狽したことだろうが、この二人に限っては恐るに足りない。
葛原は四十代の醜い中年男が、十代の血気盛んな少女達にやり込められている姿を見ながら、ほくそ笑んでいた。
この男は、俺に楯突いたばかりか恫喝までしたのだ、これくらいでは生温い。 それ相応の報いは受けてもらわねばなるまい。
出る杭は徹底的に打つ。 策士・葛原本領発である。
「ぼ、僕はただ君達に、まともな道を歩んでほしかっただけなんだよ」
親のスネをかじる無職の男が、前途洋々な少女達に説教を垂れる。 これほど滑稽な説教は、後にも先にもないだろう。
「人の心配するより自分の心配でもした方がいいんじゃないですか? あたし達の体をニヤニヤしながら睨め回してる人に、人生の先輩面して説教されたくありません」
臆病の殻に閉じこもっている絹江が、珍しく感情も露に椎名を糾弾する。
そんな激昂している姿を見たスナイパーと葛原は、弱々しく脆い一面を持ちながらも、胸の裡に潜む情熱をむき出しにした絹江に、すっかり心を奪われていたのだ。
こ、こいつ、こんなにかわいかったのか。
護りたくもあり、護られたくもある。 可憐さの中に逞しさを兼ね備えた絹江が、少女から女に変貌を遂げた瞬間である。