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伝説のスナイパー  作者: まこと
75/162

No.75

皆がテーブルを囲み談笑する中、椎名だけが窓の夜景を眺めながら恍惚な表情を浮かべ、黙りこくっている。

この状況下でも尚、別世界の住人であるかの如く振る舞う自身の姿に酔い痴れ、やがて誰かに話し掛けられるのを待ち侘びているのである。

フィクションの世界でも用いられなくなった前時代的な受け身のテクニックを駆使することにより、女に話し掛け相手にされない事態に陥っても、精神的ダメージを負わずに済む効果がある。

だがそんな願いも虚しく、誰一人として椎名に話し掛ける者はいなかった。

この姑息なテクニックは、異性を惹きつける容姿はもちろんのこと、雰囲気、立ち振舞い、全ての要素が高水準にまで高められた人物のみ有効な手段である。

デブ椎名如き超低レベルな中年が実践したところで、嫌悪感を抱かれ相手にされるはずないのは目に見えている。

そしてこのテクニックには、常に失敗が付いて回る。

失敗した者にはそのまま、己れに酔い痴れるスタイルを貫かなければならない。 話し掛けることも、話し掛けられることもなく長い時間を過ごさなければならない。


「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」葛原が立ち上がる。

「早く戻って来ておくれよ」

「僕もトイレに行ってくるかな」誰も反応しないまま椎名が席を立つ。

「ねぇ、あのデブ何なのさ? ずっとニヤニヤしながら黙ってるし、気持ち悪いったらありゃしない。 いつもあんな感じなのかい?」

椎名が立ち去るや否や、卑怯者の静江は苛立ちを露にする。

「さぁ、どうだろう? なんせ今まで全然交流がなくて、今日初めて誘ったから、どういう奴か分からないんだよ」

スナイパーの中の妄想世界では、毎日の様に椎名を痛め付けているが、そこは割愛することにした。

「何であんな変な奴を誘ったんだろうね? 葛原さんの人格を疑っちゃうってもんだよ」

スナイパーの名前も出すところだったが、そこは辛うじて堪えた。

「そうね・・・ 確かにあんな気持ち悪い人は、そんなに居ないもんね。 近くにいるだけで怖いわ」

臆病者の絹江は常に報復を恐れ、滅多に本心を明かさないが、今夜は我慢ならなかったようである。

「あのデブにはお帰り願いたいよね。 あたしに食べ物くれないなんて最低」

大食漢の道江は、食べ物を献上しない人間は全て異端視する。

それぞれがそれぞれの思惑を抱えながら、合コンは続くのであった。

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