No.74
くそっ! 何なんだ、このクソ女は!? 食べてるだけで、何しに合コンに来てるんだ?
食べるためだけに合コンに来たのだ。
スナイパーはキーマンである道江にコンタクトを試みるが、その都度辛辣な言葉で斬って返される。
なかなか手強いですね。 今度は俺が行ってみます。
気を付けろよ、奴は一筋縄じゃいかないからな!
このスナイパーと葛原の一連の会話は、全て目配せによるものである。 最早この二人には言葉など不要である。
「道江ちゃん、良かったら俺のも食べない? ビール飲んだから、こんなに食べれなくてさ」
葛原が自身の小皿に盛られた唐揚げを献上する。
「いいの? ありがとう! あたし、葛原さんみたいな優しい人大好き!」
「道江ちゃんみたいなかわいい娘に、そういってもらえると光栄だよ」
スナイパーは開いた口が塞がらなかった。 意中の相手はいないと豪語し、あまつさえ食事の邪魔をするなと糾弾された。
それがどうだろう、食べ物を分け与えただけで、自身のタイプであるかの様な発言を仄めかす。
だがこれで一つの法則を発見することが出来た。 道江は食べ物を与えられた相手に対しては、心を開く傾向がある。
これに気付くまでの犠牲が大き過ぎたが、今からでも遅くはない。
「道江ちゃん、俺のも食べる?」
撃沈しても尚、再度立ち向かう。
「葛原さんからもらったから、もういらない。 それと、あたし食べ物で釣られる程軽い女じゃないから!」
こ、この腐れ外道が! 何であのボケナスと、俺との対応がこうも違うんだよ! 俺がおかしいのか? それともあの女がおかしいのか?
両方おかしいのである。 異性と付き合ったことのない者同士、男女間の距離の置き方、タイミングの取り方がまだ理解出来ていないのだ。
「そんなこと言ったら駄目だよ。 ジミーさんは、道江ちゃんの喜ぶ顔が見たくて差し出したんだよ」
「何か見下されてる様で鼻に付くけど、葛原さんがそういうならもらってあげるわ」
見下してるのはどっちだよ。 この女、絶対ろくな死に方はしないだろうな。
ろくな死に方しないのは自身の方であるが、道江に対する怒りからその矛盾にすら気付いていない。
何はともあれ、合コンのキーマンである道江を手懐けることに成功した男性陣であったが、更なる問題が勃発した。