No.72
椎名の子供染みた自己紹介により、重苦しい雰囲気が蔓延する中、次は女性陣の自己紹介である。
「名前は洞口 静江、年は二十三歳、B型、職業はOL。 あんた達よろしく頼むよ。 次は絹江の番だよ」 ふてぶてしい態度で、男性陣を見やる。
当たり障りのない自己紹介に徹した静江は、隣にその権限を渡す。
「あっ、あの、腰元 絹江です。 年は二十三歳、O型。 仕事は静江と同じOLしてます。 よろしくお願いします」慌てて頭を下げる。
絹江は静江と違い、何かに怯えている面持ちで座っている。
「愛坂 道江です。 年は二十三歳、学校・・・か、会社も同じでOLやってます。 よろしくお願いします」笑顔で頭を下げる。
三人の中では、道江が一際溌剌としている様である。
彼女達は社会人という仮面を被っているが、まだ十七歳と年端も行かぬ生娘である。
そう、彼女達こそ木嶋 美香率いる似非ダンスチームのメンバーであった。
夏休み中に衝撃的な思い出を作ろうと、精一杯の背伸びをした卑怯者の静江がメンバーを出し抜き、単身夜の街へ繰り出し夜遊びを覚えた。
アルコール度数の少ないカクテルで大人を気取り、普段行き慣れているはずのゲームセンターやカラオケには一切目もくれず、バーでダーツに興じていたところ、葛原に出会い意気投合した。
校内で他のメンバーに、葛原との出会いを半ば優越感に浸りながら自慢すると、絹江と琴江の反応が予想外に好調だった。
絹江はさて置き、残虐非道の琴江も奸智が働いてもまだ十代の多感な少女、アバンチュールな出会いに憧れて当然である。
琴江に葛原を交えて合コンを開いて欲しいと言われたのは、その翌日のことであった。 しかし、これに難色を示したのは臆病者の絹江だった。 夢物語を聞くのと、体験するのとでは大きな開きがあったからである。
道江には興味がないと一蹴され、このままでは琴江と二人で行かなければならない事態に陥ってしまう。 琴江との間にワンクッション置くために、何としてでも絹江を誘わねばならない。
年上との逢瀬が如何に安全かを強調し、抱き込むことに成功した。
そして、いよいよ合コン当日という日に、琴江に急用が入った。
一難去ってまた一難、途方に暮れる静江はピンチヒッターに道江を起用した。 道江は興味がないの一点張りだったが、抱き込むのは簡単だった。 居酒屋でのコース料理を好きに食べていいと交渉したところ、快く引き受けてくれた。
そして今夜の運びとなったのだ。