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伝説のスナイパー  作者: まこと
66/162

No.66

「そ、そんな殺生な・・・」

椎名が一生分の勇気を振り絞り、スナイパーにアニメDVD返却の催促を迫ったが、見事に突っぱねられた。

「お願いします、後生ですから返して下さい。 あれは僕が小さい頃からずっと憧れてた理想の男なんです!」

何だとっ!? おまえみたいなデブ風情が、冴羽さんに憧れるなんておこがましいにも程があるぞ!

始めは自身の境遇と照らし合わせ、ライバル視さえしていたが、今ではすっかり冴羽 獠を崇め、たて祀っていた。

「さあね、返してくれと言われても、知らないものは知らないからなぁ」

意地でも返すつもりはないらしい。

「こ、この通りです! あなたに少しでも人間としての心があるなら、この哀れな男の願いを聞きいれて下さい!」

貸与したはずの椎名が、肥った体を無理やり折り曲げ、土下座をする。

ガマ蛙が地に這いつくばっている様な姿を見たスナイパーに、虐待的衝動がうずうずと湧き上がってきた。

「黙って聞いてれば、人聞きの悪いこと言ってくれますねぇ。 椎名さん、そんな格好じゃ話しにくいから、顔を上げて下さいよ」

「じゃ、じゃあ、返して下さるんですね!」

ベチィーンッ!

「ぶびぃっ!」

椎名が顔を上げた。と、同時に、スナイパーの張り手が、椎名のたるみ切った頬に炸裂し、情けなく崩れ落ちた。

この張り手一閃により、お互いの妄想世界に突入する。

スナイパーの世界では、汚職警官役の椎名が放った凶弾に斃れた美香を踏みにじりながら、椎名に制裁を加えるというものだった。

最早、美香も葛原と同様、椎名へ怒りの起爆剤としての地位に降格させられることとなった。

一方の椎名は、放課後に美香と校内で不順異性交遊に耽っていた所を、学年指導役であるスナイパーに見つかり制裁を加えられていた。

案の定、スナイパーの制裁は美香が泣いて庇おうとも意に介さず、椎名の意識が喪失するまで続ける徹底ぶりである。

これでもお互いは、今この現状を現実として捉えていないのだ。


買い物から帰った葛原が、椎名の情けなくたるんだ顔を見て驚愕した。

「し、椎名さん、大丈夫ですか!? 頬が腫れてますよ!」

「ああ、こんなの何てことないよ。 ちょっとぶつけただけだ。 気にすることはない」

椎名は葛原に対して、どこまでも強気でいられることが出来たのだ。

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