表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説のスナイパー  作者: まこと
61/162

No.61

殺人という禁忌を冒す美香の心臓は、今や早鐘の如く脈動していた。 包丁を握る手が汗ばみ、震え始める。

しかしそれとて、貴重な安眠を妨害されたスナイパーへの殺意の方が強く、理性を駆逐していたのだ。

早く出て来い密入国!

美香の祈りは通じず、まだ扉が開く様子はない。

そんな時である、美香の祖父である吉右衛門との思い出が蘇った。


美香が高校生の頃、鉈を持った吉右衛門が、収穫の終わった畑に取り残された案山子の胸部を指差した。『美香よ、あそこにおる案山子を人間だとしよか。 刃物で胸を刺す時は、刃を縦に刺しちゃいかんよ。 肋骨が邪魔しよって心臓に刺さらんからのう。 刺す時はこうやって、刃を横に寝かせて刺すんよ』そう言うや否や『きえーっ!』案山子目がけて体当たりをした。

それを目の当たりにした美香は、祖父がもうろくしたんだと本気で怖くなった。

今にして思えば、祖父のあのレクチャーは、この日のためのものだったのかもしれない。

それならば、尚更失敗は許されないだろう。

老人の気まぐれを、自身の都合のいいようよに解釈をする。

時を超えた祖父からのレクチャーを反芻しているうちに、扉が開きスナイパーが横柄な態度で扉を開けた。

「はい、なんでしょうか?」

しまった、タイミングを逃した!

美香が過去に思いを馳せているうちに、スナイパーに意識を外された。

そして美香の失態はそれだけではなかった。 部屋の中に人がいたのだ。

あいつは105号室の葛原っ!

密入国者であるスナイパーには、友人などいるはずないという先入観から、一人で騒いでると思い込んでいたのだ。

まずい、何か言わねば怪しまれる。

「ちょっと、なんでしょうかじゃないでしょ! さっきから騒いでばかりで、いい加減にしてくれませんかっ! この間も人の部屋の前にずっと立って大声出して、ストーカーまがいなことは一切止めて下さいっ」

バタン! 唖然としているスナイパーに反論の余地を与えず、勢いよく扉を閉めた。

今日は命拾いしたわね密入国。 でも次はないわ。

命拾いをしたのは、自分だということに一生気付くはずはないだろう。

あれ? 腕の痺れが治ってる!

強烈な殺意という非日常的な感情を突出させることで、アドレナリンが大量に分泌され、腕の痺れが一時的に打ち消されたのである。

この日を境に、美香の殺意に溢れる激動の人生が始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ