No.6
「さぁ、冗談はこれくらいにして、銃を返してくれ」
「いいえ、それはできません」
「なぜだ! それは俺のだぞ!」
「市民は犯罪が起きたら警察に通報する義務があります。この銃が何よりの証拠、明らかに銃刀法違反です」
スナイパーは焦っていた。日本に来たばかりなのに、またもやピンチに見舞われてる。
「そして何よりあなたの格好が怪しすぎる。夏でも薄汚れたコートを着て、銃を持っている。これではまるで殺し屋みたいじゃないですか」まさに殺し屋である。
またも正体を見抜かれたスナイパーは銃口を向けられ、死と隣り合わせの状況下で、生への歓びを感じていた。
この男は極限状態の中でしか生きられない人種なのだ。
こんな町医者にまで俺の正体を見破られるとは・・・
「たのむ、返してくれ・・・」
スナイパーが無表情の仮面を脱ぎ捨て涙を流した。 泣き真似である。
「それは俺の大事な人が形見にくれたものなんだ!」
これは事実である。 スナイパーが若かりし頃、殺しのスキルを教わった師から授かったものである。
「やはり本物なんですね?」
「違うんだ! 本当にそれはオモチャなんだ。 信じてくれ」
「じゃあ、証明してみせてください」
「えっ?」
「本物ではないことを証明してみせてください」
チャンス到来である。
「わかった。ならば、まずは銃を返してくれないか?」
スナイパーが手を差し出す。
「駄目です、それは出来ません。 言葉で証明してください」
医者がそれを拒絶する。
「・・・くっ! じゃあ、銃の脇のラッチを押してくれないか」
「ラッチ? これのことですか? えっと、こうすればいい・・・あっ!」
思わず手が滑って銃を落としてしまった。
ゴトッ!
「あーっ! 何するんだよ!大事な形見だって言っただろっ!!」
愛銃を慌てて拾い、おかしな箇所がないか確かめる。 もはや泣き顔である。
「ごめんなさい。わざと落とすつもりはなかったんです」
「壊れたらどうしてくれるんだよ!? どう責任取るんだよ!? 形見なんだから、もっと大事に扱ってくれよ!」
形成逆転とはこのことだと言わんばかりに、完膚なきまでに言及する。
「お気を悪くなさらないでください。 あの、もし用事があるのでしたら、お引取りいただいても結構ですよ」
「そうさせてもらうよ!」
心の中で舌を出した。
スナイパーは病院を後にした。 辛くも第二関門を突破した。
日本の医者もちょろいもんだな。 日本自体ちょろいんじゃないか!