No.54
「みんな行くよ!」
「合点!」リーダーらしき者の合図に皆が応える。
二十年近く前のマイナーな曲が流れ、スタート。
な、なんて見事なダンスなの! あたしにあんなこと出来るはずない・・・
美香の目には、さぞ華麗に映ったことだろう。 ただし、これは飽くまでも美香のフィルターを通しての情景である。
実際は、何のことはないジャンプしながらのターン、そして決めのポーズ、たったこれだけである。
ジャンプターン決め、ジャンプターン決め・・・ 曲が流れている間、延々このサイクルが繰り返される。
ダンスを始めて3ヶ月弱、四人が苦心の末習得した技法がこれである。
始めは皆ジャンプしてからの回転に三半規管をやられ、嘔吐してばかりだった。 だが次第にその回転にも慣れ始め、誰も嘔吐する者がいなくなった。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。 三半規管が麻痺してしまい、真っ直ぐ歩くことができなくなっていたのだ。
ダンスに命を賭している、この言葉はあながち間違いではなかったようである。
やがてダンスが終わり、すっかり満足顔の彼女達が優越感に浸りながら美香を振り返る。
「どうだい? あんたに、あたい達の真似ができるかい?」リーダーらしき少女が、得意げに美香を見る。
ふふ、美香が鼻で笑う。
「さっきから見てれば、馬鹿の一つ覚えみたいにワンパターンな動きばかりじゃない」
四人に衝撃が走った。
あの女、ただ者じゃない・・・ あたい達の動きが見抜かれてる!
誰でもすぐ見抜くことができるのだが、それを敢えて口にするのも大人気ないと感じ、黙っている者ばかりなのだ。 知らぬは、おめでたい当の本人達だけであった。
「じゃ、じゃあ、そう言うんならやってごらんなさいよっ」
「そうよ、やってみなさいよ」
リーダー格の一言に皆も加勢する。
「やってみろ!やってみろ!」
それはやがてシュプレヒコールとなり、美香を挑発する。
決断を迫られた美香は前へ出た。
「さっきの曲かけてくれる?」
曲が流れ出す。 美香は彼女達のワンパターンな振り付けを何百回と見ているのだ。
自分には出来るはずだと暗示を施そうとするが、あんな見事な踊りを再現するのは困難な作業と言えよう。 しかし、彼女達は待ってはくれない。
ええい、ままよ!
曲に合わせジャンプからターン、着地と同時に足首を捻り、ゴッ! 後頭部をしたたかに打った。
そして暴君・美香は沈黙した・・・