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伝説のスナイパー  作者: まこと
51/162

No.51

な、なんだったんだ今のは!?

101号室の扉の前に、一人取り残されたスナイパーは呆然と立ち尽くしていた。

騒音がうるさいと注意しに行ったのに、夜中に人の部屋のチャイムを鳴らすのは非常識だと挿げ替えられた。

明らかに理不尽な対応である。

非は向こうにあるのに、いつの間にかこちらが悪者扱いである。

まさに非常識を非常識で斬って返されたのだ。

ふつふつと怒りが込み上げてきたスナイパーは、懐から銃を抜いた。

美香に何かあった時のために持ってきたのだが、皮肉にもその狂気の銃弾を「警護者」である美香に撃ち込もうとしているのだ。

また床を踏み鳴らす音が聞こえてくる。 注意しても止めぬどころか、却ってエスカレートしているようにも感じられる。

「あのクソ女、ふざけやがって」

この下町アパートに引っ越してきた日から美香に好意を寄せており、妄想世界では毎日のようにヒロインに起用し、デブ椎名の脅威から護ってきたのだ。

怒り心頭のスナイパーには、今や現実と妄想世界の区別が付かなくなっていたのだ。

スナイパーには、今までの美香への淡い想いは跡形もなく消え去り、残っているのは真っ黒な憎悪だけである。

扉の向こうの美香に向かって銃を構える。 部屋の構造は同じである。

美香の位置は、あの憎悪を助長するかのような足踏みが教えてくれる。

スナイパーには、美香の足踏みが自身への最期の祈りの言葉であるかのように聞こえた。

「ふっ、自分で自分の念仏を唱えるなんて、バカな女だな」

銃の撃鉄を起こし、狙いを定める。 見えない相手への銃撃ほど神経をすり減らすものはない。

スナイパーは、今までの妄想世界で美香との思い出を反芻していた。

笑う美香、おどける美香、嫉妬に怒り狂いスナイパーを追い回す美香。

全ての美香が愛おしく感じられる。

そんなスナイパーの感傷をよそに、美香の足踏みは続いている。

気が付けばスナイパーは泣いていた。

「バカヤロー! 撃てるはずないだろうがーっ!」

スナイパーの騒ぎ声を聞きつけた美香が、勢い良く扉を開け放った。

「ちょっと、いい加減にしてくれませんか!? さっきから言いがかりつけたり、人の部屋の前で騒いだり! これ以上しつこいようなら警察を呼びますよ!」バタン! 再び勢いよく扉を閉められた。

理想と現実の差を、まざまざと見せつけられた夜であった。

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