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伝説のスナイパー  作者: まこと
50/162

No.50

8月5日深夜。 下町アパートの住人は、深い眠りに就いていた。

それは、104号室のスナイパーとて例外ではなかった。

何の警戒心も抱かず眠りこけている姿は、最早スナイパーとしての欠片も残されてはいなかった。

日本に来て「象山院襲撃未遂事件」以降、脅威となり得るものがなくなったスナイパーは、日本の安全神話の上に胡座をかいていたのだ。

そんな堕落し切ったスナイパーに、アクシデントが襲いかかった。

ドンッ、ドドッ、ドンッ、ドンッ!

「ひっ!」天井からの凄まじい音で、跳ね起きた。

寝ぼけ眼の腑抜けたスナイパーでも、騒音元が二階の101号室、木嶋美香の部屋からだと瞬時に判断できた。

「あのデブがまた美香を襲おうとしてるのかっ!?」

スナイパーお得意の妄想世界に突入したようである。

妄想世界では美香はスナイパーのパートナーとして活躍しており、一度死んだが、また黄泉返ってきた美香の兄役に葛原を、そして悪役には椎名を起用しているのだ。

本日は、デブ椎名の足を踏んだだけで美香が命を狙われるという、かなりいい加減な動機の妄想である。

スナイパーは美香を護ると誓うが、一緒の部屋では寝ることは出来ないとバカみたいなことを言い出した。

その間も、相変わらず騒音は鳴り止まない。 よく聞くと、何かしらの法則性に則った音に聞こえる。

「襲われてるんじゃないのか」スナイパーが肩を落とす。

襲われていれば、椎名を思う存分痛め付けられると思っていたのだ。

それからも美香が床を踏み鳴らすであろう音が、30分以上も続いていた。

「うるせー音だな。 これは騒音以外の何者でもないぞ」

そう言うや、意を決して部屋を出た。


「ピンポーン!」スナイパーは美香の部屋の前にいた。

しばし無言・・・ ややあって部屋の中で動いている様子が伝わってくる。

ドアチェーンを付けたままの扉が控え目に開き、中から汗で額を湿らせた美香が顔を覗かせた。

「夜分遅くに恐れ入ります、104号室に住むジミーです。 あの、夜も遅いことですし、物音を何とか止めてもらえないでしょうか?」恐縮したスナイパーがおずおずと進言する。

スナイパーが美香と話すのは、引っ越しの挨拶に来た時以来である。

「ああ、それはご迷惑をおかけしてすいません。 ただ、こんな夜遅い時間に人の部屋のチャイムを鳴らすのは非常識だと思うんですけど!」バタン! 勢いよく扉を閉められた。

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