No.5
ん・・・ここは・・・俺はどこにいるんだ?
辺りを見渡すとそこが病院であることが分かった。 様々な機器が並び、腕には点滴のチューブが刺さっている。
そうか、あのとき暑さで倒れたのか・・・
文字通り日本の暑さを身に滲みて体感したスナイパーである。
そこで我に帰り、正常な判断が働く。
あれ? 俺のコートと銃がない!!
「ないっ! どこだっ!? どこだっ!!?」
「あ、よかった、気がつきましたね。 熱中症で倒れてたところを、搬送されて来たんですよ」
スナイパーと同年代くらいの白衣を着た男が入ってきた。
「俺の荷物はどこだっ!?」
「ああ、荷物でしたら、下のかごに入れておきましたよ」
ベッドのすぐ下にコートと銃が置かれていた。 灯台下暗し、なぜか妙な安堵感を得る。
「こんな暑い日にコートを着てたら誰でも倒れますよ、いくら体力に自信があるからと言っても無理は禁物です。 気をつけてくださいね」
「ありがとう。迷惑をかけた」
まだ体がフラつくが、起き上がり点滴の針を抜こうとする。
「待ってください! 今外しますから」
点滴を外され、ガンホルスターに手を伸したが、新たな問題が浮上した。
あれ? じ、銃がない!?
「これのことですか?」医者の手にはスナイパーの愛銃が握られていた。
「ああ、返してもらえないか」ホルスターを肩にかけ、コートを羽織りながら言う。
「そういうわけには行きません。 この重さや質感からして、どうやら本物のようですね」
「いや、精巧に造られているが、それはオモチャなんだ」
はあ、ここでもまたあの問答をやるのか・・・
「医療を支える立場の人間としましても、いたずらに怪我人を出させるわけには行きません!」
「いや、ほんとにそれはオモチャなんだ」
「じゃあ、撃ってみますか?」銃口をスナイパーに向ける。
自分の銃で自分が撃たれる屈辱、そんな考えが頭を過る。
「や、やめろ! 危ないじゃないか! いたずらに怪我人を出させないんじゃなかったのか!?」
「本物じゃないんでしょう? だったら問題ないはずでしょう」
人の命を救う救命救急の現場で死の恐怖にさらされている。 思わぬところで第二関門が待ち受けていた。
銃を向ける医者、愛銃を向けられるスナイパー・・・