No.49
「かっぱ寿司」で日本の味を堪能したスナイパーは、ご満悦であった。
葛原から差し出されたビントロがよほど気に入ったのか、気が付けばビントロばかり二十皿も食べ続けていた。
これには葛原も呆気にとられ、ただただ黙ってスナイパーが食べる様を見ているだけだった。
しかし、三十皿目をピークに、食べる速度が遅れ始めてきた。
「ジミーさん、大丈夫ですか!?」
スナイパーの顔色がみるみる青ざめていく。
「うん・・・なんでもない」
喋るのも苦痛であろう。
「食べ過ぎなんじゃないですか? しかも同じ物ばかり。 違う物を一緒に食べたり、お茶も飲んだ方がいいですよ」
うるせーな、俺に話しかけるな。 もっと食ってやるから覚悟しとけよ。
スナイパーの中には、自分を格下へと追いやった葛原へ対する復習心でいっぱいだった。
寿司は美味しかったのだが、それよりも寿司を食べることで、葛原に散財させる目的の方が濃厚であったのだ。
そして、悲劇は突然にやってきた。
沈黙し、脂汗を流しているスナイパーが突如嘔吐した。 今まで葛原に散財させようと食べてきたビントロ三十六皿分を、吐瀉物として盛大にテーブルの上にぶちまけたのだ。
昼間の嘔吐といい、本日二度目の嘔吐である。
寿司の中でも一際脂分の多いビントロを大量に食べたのだ、吐いて当然であろう。 スナイパーの認識不足が招いた悲劇である。
横のテーブル席でスナイパーの豪快な嘔吐ぶりを見ていた客が連鎖反応的に嘔吐した。 始めの小火が大火へと拡大するのに、大した時間はかからなかった。 スナイパーの嘔吐を見ていた客が、次から次へと嘔吐を繰り返していったのだ。
今や店内のほとんどの者が「もらいゲロ」に感染していた。
小火の張本人は、自身の吐瀉物を前に縮こまり俯いている。
幸いにも、葛原はほとんど寿司を食べていなかったので、被害は免れることができたのだ。
「ジミーさん、大丈夫ですか? とりあえず表の空気でも吸ってきましょう」葛原はスナイパーを抱え、修羅場を後にした。
そして、ここに無銭飲食のコンビが誕生した。
スナイパーが盛大に食べ、胃のキャパシティを超え嘔吐する。 周りに吐瀉物を見せつけ、伝染させる。
阿鼻叫喚の店内からスナイパーを介抱しようと、葛原が表に連れ出し逃走する式図である。 スナイパーにとって分が悪いように思えるが、始めに吐いた方が悪いのである。