No.48
スナイパーがコンベアの上を流れる寿司という寿司すべてに、口に含んだ人差し指を付けるという不可解な行動を取っていたのだ。
しかも一皿毎に、口に指を含み唾液の補充をする念の入れようである。
「ちょ、ちょっと、何やってるんですか!?」
決まってるだろ、おまえへの仕返しだよ、バーカ!
格上として葛原に敵わないと悟ったスナイパーは、稚拙な行動で迷惑をかけることでしか対等な勝負を挑めないのであった。
葛原に全面降伏した瞬間である。
「え? 何って、これ広告塔だと聞いたから」また指を咥える。
「もう止めて下さいよ、ジミーさん! それは飽くまでも俺の自論でして、商品であることには変わりないんです。 それに店側の思惑にうまく嵌まるお客さんもいるんですから、そんなことしたら営業妨害で捕まっちゃいますよ」
いつの時代でも悪い情報というものは、伝播するものである。
スナイパーの不可解な行動を見ていた者や、二人の会話を聞いた者が不快感を露に話しているのを隣りの客が聞き、そしてまた隣りの客が聞く。 その負の連鎖が鼠算式速度で版図を拡げていったのだ。
今や店内すべての周知の事実となっていた。 知らぬは、お上の従業員だけである。
かっぱ寿司の従業員は、コンベアを流れる寿司が全く売れないことを疑問に思ったが、よもやスナイパーの稚拙な仕返しの標的にされてるとは知らず、スケープゴートとなった全ての商品は廃棄処分にされることとなった。
程なく二人のもとへコンベアの上の専用レーンに新幹線を模したであろうトレイが到着した。 注文した商品はそこから運ばれてくるシステムになっているのだろう。
「何はともあれ、食べましょう。 ジミーさん、お寿司は食べたことありますか?」
「何はともあれ」の一言で、スナイパーからの仕返しを収めた葛原が、ビントロを差し出した。
「いや、火を通してない物を食べるのは、ちょっと抵抗があるんだ」
「だったら、これを食べてみてください。 きっと病みつきになるはずです」
スナイパーはビントロを醤油に付け、恐る恐る口に運んだ。
「ん!? これはっ!?」
今まで食した、どの食べ物とも違う食感である。 個体であるのに、液体のように口の中でとろけるのだ。
激しくなく控えめであるが、忘れられぬ味。
日出ずる國、伝統の味「寿司」であった。
「マ、マイルド・・・」