No.47
店内は夕食の時間とあってか、客は超満員であった。 スナイパーは物珍しそうに、辺りを見回していた。
東京にこんな保存状態のいい、中世の建物が残っていたのかよ。
日本文化に乏しいスナイパーは「かっぱ寿司」の店舗が、江戸年間に建立された物だと信じて疑っていなかった。
店内の至る所にイラストしてある二頭の河童は、この店のマスコットキャラクターなのだろう。 姿形は同じだが、恐らくは青い蝶ネクタイを付けている方がオスで、赤い衿が付いてるのがメスであることは推察できた。 性別の区分けのつもりなのだろうが、安易な考えである。
「寿司」はアメリカでも聞いたことはあったが、食べるのは今日が始めてである。
加熱処理を施してない魚介類を摂るのには、抵抗があったのだ。
ほどなくして、二人が呼ばれた。 テーブル席に案内され、横を見たスナイパーは度肝を抜かれた。 寿司がコンベアの上を流れているのだ。
「ジミーさんは回転寿司来るの初めてですよね? 食べ方教えますよ」醤油とお茶とガリの準備を進めながら、葛原が言った。
「まず、自分の食べたい物があったら、上のタッチパネルをこうやって操作して注文するんです。 簡単でしょ」
葛原が「ビントロ」を注文するついでに、レクチャーを施したが、スナイパーにはコンベアの上を流れている寿司の方が気になるようである。
流れている寿司を取ろうとしたら「ジミーさん! それは取っちゃ駄目です。 例え自分の食べたい寿司が流れていても、タッチパネルで注文するのが暗黙の了解になっているんです」葛原に一喝された。
葛原の豹変ぶりに、震えながら手を引っ込める。
「そうだったのか。 ルールを知らなかったから、つい・・・」意気消沈しながらつぶやいた。
なんなんだ、このバカの変わりようは!? スシは人間をこうも変えるものなのか?
格下だと思っていた存在が、昼間の「衣服処分未遂事件」で同等へ、そして「寿司取得事件」で格上へと急成長を遂げた瞬間である。
スナイパーには、もう減らず口を叩くことくらいしか出来ずにいたのだ。
「これは自論ですけど、流れている寿司は、客に商品を選ばせるための広告塔の役目を果たしているんじゃないかと考えているんです。 それを取ったら、店側の思うツボなんです」葛原がいつになく熱く語っている。
と、視線を上げた葛原は、スナイパーの行動に我が目を疑った。