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伝説のスナイパー  作者: まこと
35/162

No.35

8月1日、午前11時。 本日の東京は摂氏38度の超真夏日である。 熱中症者が続出する中、自治体からは外出を規制する厳戒態勢が敷かれた。 この殺人的な猛暑は、下町アパートも例外ではなかった。

104号室では暑さに屈したスナイパーと葛原が、無駄な体力を使うまいと床に寝転び、エアコンの冷気を浴びていた。 しかし、それとて外気の暑さにより、その機能を果たしていないのが現状であった。

「ジミーさん、俺の部屋でそうめん食べませんか?」

「白くて細い麺のことだろ? うーん、今は何も食べたくないな」

おまえの顔見てると、さらに食欲が失せるんだよ。

日本に来て初めての猛暑を体験したスナイパーは、高温多湿な気候に適応出来ず、夏バテに陥っていたのだ。


スナイパーの思い込みにより発生した椎名 常夫暴行事件以来、スナイパーと葛原は、毎日のようにお互いの部屋を行き来していた。

「ね、ジミーさんのその格好じゃ暑いでしょう? 夏だから、イメチェンでもしませんか?」

「イメチェン?」

何語話してるんだ、このバカは?

スナイパーは日本語の日常会話レベルまではマスターしたのだが、和製英語や造語といったサブカルチャー的言語は、未だに理解の範疇を超えていた。

「イメージチェンジ! 要はいつもと違う服を着ましょうって意味ですよ。 ジミーさん、整った顔してるから、もっと服装に気を使えばモテますよ」

「いつもと違う服か・・・」

葛原はハーフパンツにポロシャツとラフなスタイルなのに対し、スナイパーはカーゴパンツにうす汚れたロングコートと、いつもと変わらぬスタイルだった。

スナイパーにとってこの服装は、アンダーグラウンドな青春を共に過ごしてきたものであり、アイデンティティの証でもあった。

しかしこの暑さと、葛原の未来が拓けるかのような提案で、そのアイデンティティも揺らぎつつある。

ここで格下の誘いに乗ったら、いいように言いくるめられたと思われるみたいで癪に障るな。 何とかしてアドバンテージを俺に付けなければ!

「うーん、俺も大輔が提案する前に、夏服にしようと思ってたんだよ」

これでアドバンテージは策士・葛原に付いた。

今まで培ってきたアイデンティティが、夏の暑さの前に脆くも崩れ去った瞬間である。

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