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伝説のスナイパー  作者: まこと
28/162

No.28

午後4時。 椎名は美香の体調の悪さを大義名分にアルバイトを無断欠勤し、惰眠を貪っていた。

本日の夢は、親からの仕送りを充てにしている分際で、幼馴染みの美香が家族や学校に内緒でキャバクラでアルバイトしているところを椎名に見つかるという内容だ。

美香の愚行を辞めさせようと店長であるスナイパーに直訴するが、スナイパーの怒りを買い、看板や角材で殴られ、終いには用心棒にまで痛めつけられる徹底振りである。 そんな横暴を止めさせようと、美香が泣きながら椎名を庇う。

自身を傷つけさせることで、同情心を植え付け、美香を堕とそうとする姑息なストーリーだった。 椎名は自身に矛盾があっても、都合の悪いことから目を背ける癖があった。 それを姑息とすら思っていないのだ。

整合性の取れない夢の中であっても、覚醒時と同じテンションでストーリーを淀みなく進められる椎名は妄想世界において、スナイパーより一歩も二歩も先んじていた。


椎名は幼少期に集団暴行を受けたことがあり、それを見兼ねて助けてくれた女の子がいた。

その子は気まぐれのつもりで助けたのだが、椎名にはそれだけで十分であった。 みんなに痛めつけられれば、誰かが護ってくれると勘違いしたのだ。

それ以来、椎名は自身が痛めつけられ、女の子に護ってもらう妄想に酔いしれた。 対象者はよく変わった。 同級生から担任教師、アルバイト先の女や、アニメの美少女キャラクターまで、ありとあらゆる女から護られた。 そして新たな「守護神」が現れた。 木嶋 美香である。 美少女フィギュア「胡蝶蘭」に似ていたことも手伝って妄想に熱が入った。

椎名が殴られれば殴られるほど、美香は泣きながら護ってくれた。 時には命を落とすこともあった。

常軌を逸しているとしか思えない妄想である。

ただ、椎名を痛めつける相手が曖昧で、イメージ出来なかったのだ。

そこへ先月引っ越して来たスナイパーを見て、椎名のマゾヒズムに火が点いた。

こいつだ! スナイパーの介入は、椎名と美香にとって最良のスパイスとなった。

徹底的にいたぶるスナイパー、人間サンドバッグの椎名、泣き叫ぶ美香。 このトライアングルは椎名の中で、不動のものとなったのだ。


バキッ・・・眠りから覚醒した椎名は驚愕した。 一緒に「添い寝」していたはずの「美香」が椎名の重みで無惨な姿に変わっていたのだ。

「ぐおーんっ・・・ みかーっ!」下町アパートに獣の咆哮が響いた。

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