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伝説のスナイパー  作者: まこと
27/162

No.27

7月21日快晴。 東京は長い梅雨がようやく明けたと気象庁が発表したが、旧式家屋が建ち並ぶ下町アパートの一室、椎名 常夫の部屋はいつでも梅雨前線が停滞していた。

ジメジメして気持ち悪いという理由だけで、主人公であるスナイパーが自分勝手な妄想世界で、事ある毎に痛めつけ、銃弾を喰らわせ、とどめを刺してきた敵役の椎名の部屋である。


事実、椎名は気持ち悪かった。

地元では有名な資産家の次男として生まれたが、人を不快にさせる目つきや、ジメジメした性格が周りや家族からも疎ましがられ、東京の大学に半ば勘当されるような形で追い遣られた。 卒業後、就職するもすぐ解雇の繰り返しで、以来アルバイトを転々としながら、四十二になった今でも親からの仕送りで生活していた。


椎名の部屋には、美少女キャラクターのポスターや、フィギュア、DVDで溢れ返っていた。

そしてそのDVDラックにはスナイパーに貸して、もう二度と返ってくることはないであろう唯一のハードボイルドアニメ・シティーハンターを収めてある場所が虚しく空いていた。

そんなこととは露知らず、椎名は一生懸命お気に入りの美少女キャラクターフィギュアと「会話」していた。

「美香ちゃん今日は元気なかったみたいだね。 ぼく心配でバイトに行けなかったよ」無論、何の反応もない。

相手はポリ塩化ビニル製のフィギュアである。 話しかけても返ってくる応えは期待できなくて当然であろう。

これで椎名の無職は決定である。

「美香」と名付けられたこのフィギュアは、旧名「胡蝶蘭」といったが、この間引っ越して来た木嶋 美香を見て驚いた。胡蝶蘭にそっくりだったのだ。

それからは胡蝶蘭を美香と改名し、様々な妄想を語り合った。

最も熱が入った妄想は、同じクラスの椎名と美香が高校にテロリストが仕掛けた爆弾を見つけ、それを美香の目の前でテロリストに金属バットで殴られ、血まみれになりながらも処理するストーリーだった。 脳挫傷は免れないだろう。

美香はともかく椎名が高校生と言う設定に無理があった。 それに学校に爆弾を仕掛けても何のメリットもなく、知識が備わっていない素人が警察の介入を拒み爆弾を処理するのは自殺行為と言えることである。

そして椎名の中でテロリストや悪役には必ずスナイパーを起用していた。

この男もまた妄想世界の住人であった。

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