No.160
「どちらにせよ、その目じゃ勝てないだろう・・・」
好敵手だと思っていた若き護衛者は、その実、自身が強大に創り出していた偶像でしかなかったのだ。
「こ、こんな、所で・・・ と、寅子さんに、逢うまでは、死ぬわけには、いかない・・・ んだよっ!」
パンッ!
発砲。 スライドが後退し、ロックが掛かった。 残弾数ゼロである。
「うがっ!」
「窮鼠猫を噛む」とはよく言ったものである、不自由な目で撃った弾丸が、幸運にもスナイパーの耳朶を掠めたようだ。
よし、今だっ! 素早くスペアマガジンをリロード。
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
勝機を逃すまいと、矢継ぎ早に発砲する。
被弾!
被弾!!
被弾!!!
被弾!!!!
「うがーっ!」スナイパーが断末魔の雄叫びを上げながら、倒れ込む。
能見が放った4発の銃弾は、左前腕部をえぐり、側頭部を掠め、脇腹を貫通し、右大腿部に被弾した。 全弾命中である。
動かぬ標的への銃撃である、片盲でも被弾させるのは容易なのだ。
「ち・・・ ちくしょう・・・ ! お、お、俺が、気を抜いて、どうす、るんだ・・・っ」
熱く灼かれた傷口に悶えながらも、懸命に立ち上がるが、いつ昏倒してもおかしくはないだろう。
「う、うそだろっ! ま、まだ、立てる・・・ のかよっ!?」
能見は、衝撃を禁じ得ずにいた。 それも当然である。 9mm弾を4発も受けた人間が、立ち上がるなど誰が想定していようか?
「ちっ・・・ 誰が、た、立たせるかよ・・・ っ! そこで寝てろっ!」
パンッ! パンッ!
再び発砲。
被弾!
被弾!!
2発の銃弾は左肩部に被弾し、左肩上部をえぐった。
「うがーっ!」断末魔の雄叫びを上げるも、昏倒するにまでは至らず、辛うじて踏みとどまった。
「ま、まだ・・・ 死なないのかっ!? この、バケモノ風情がっ!」
ガキィッ、ガキィッ、ん? 三度発砲しようとしたが、どうしたわけか作動しない。
何ぃ、ジ・・・ ジャムった!
スライド排莢部に薬莢が詰まり、次弾が発撃されずにいた。
「・・・ ジャミングか。 運が、なかったな・・・ これからは、リボルバーを、使うことだ」そう言うや、剛脚を繰り出し、能見の銃を払う。
ゴキャッ!
「がぁ!」右腕が、自身の意思とは無関係に垂れ下がる。 右腕肘部骨折である。
9mm弾を6発も被弾した手負いの状態でありながら、スナイパーが繰り出した剛脚は十分な威力であった。
激痛にうずくまる能見に、再び引導を渡そうと銃を構える。
「さあ、こ、今度こそ・・・ 楽に、してやるよ・・・」