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伝説のスナイパー  作者: まこと
16/162

No.16

どこをどう歩いて来ただろう、それすらも自覚がないほどに、人生初の失態が応えたようだ。

それでも周囲に対する警戒心だけは解いてはいなかった。 無意識下の行動である。

ずぶ濡れのスナイパーは、疲労から空腹感を覚えた。 と、そのとき、煌々と照らされた黄色い看板が目に入った。 看板には「幸楽苑」と書かれているが、スナイパーには読めようはずがない。

店のレイアウトから、どうやらここは食事を提供する店であることが推察できた。

スナイパーは、極めて短期間のうちに各国の公用語をマスターできるのだが、リーディングやレタリングに関してはその限りではないのだ。

疲れたし、腹も減ってるし、入ってみるか。


店内に入ると、客はスナイパーと男女の若い恋人達だけだった。

「いらっしゃいませ。 お一人様ですか?」ウェイトレスが平身低頭で出迎える。

見て分かんねえのか? 一人に決まってるだろ。

「ああ」怒りを露わにせず、ただ頷くだけに留めた。

「お好きな席へどうぞ」

女店員は笑顔であるが、その裏ではずぶ濡れのコートの外国人をホームレスと勘違いしていた。

辺りを見回し、全体が見渡せ、刺客の襲撃に即座に反応できる席に着く。 暗殺者の鉄則である。

「ご注文は何になさいますか?」

「すまないが、この店で一番ポピュラーなものをくれないか?」

「はい。 それでしたら〝中華そば〟ですね。 少々お待ち下さい」

客も店員もみなずぶ濡れのホームレス風の男を、遠巻きにジロジロ見ている。


「お待たせいたしました! 中華そばです」

やがてスナイパーの前には、湯気が立つ香ばしい器が運ばれてきた。

普段は出された物は決して口にしないが、疲労と空腹感で判断力が鈍っていたのか、あるいは無理やり暗殺者としてのプライドを抑えたのか。

使い慣れぬ箸を駆使し、麺をすくい上げる。

これは・・・ ヌードルか?

ヌードルである。

何はともあれ、麺を恐る恐る口へ運ぶ。

「な、なんだこの味はっ!? 」

不審な外国人が、幸楽苑のラーメンを食べて驚いている、その反応を見た客や、店員は笑いを堪えるのに必死だった。

全身に走る衝撃、革命とはこのことであろう。

悲しいほどに暗殺者としてストイックに生きる日々・・・「常に空腹であれ」恩師からの教えである。

空腹感を満たしては、鋭さが欠け周囲への警戒心が疎かになってしまう。

それ故にスナイパーは必要最低限の食事しか摂取しない。

外食に行くにしても、信用できる店の、決まった席にしか座らない。

食うために生きるのか、生きるために食うのか、その価値観が一杯300円のラーメンで変わりつつあった。

「デ・・・デリシャス!」

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