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伝説のスナイパー  作者: まこと
158/162

No.158

「・・・ はい、能見です」

非常事態であるにも関わらず、能見の心中は少年の如くときめいていた。 恋である。 これを恋と言わずして、何と言えよう。

『あ、もしもし、能見君。 こんばんは。 そこにお父さんいないかしら? なんかね、さっきから何回も電話してるんだけど、電波が悪いのか、さっぱり繋がらないのよ』

何度掛けても繋がろうはずがない。 実父の携帯電話は、文字通り能見の手によって握りつぶされたのだ。

電波が悪いのではなく、警察へ密告しようとした象山院が悪いのである。

「先生なら、今さっき歩いてそちらに向われましたよ」

『え、どういうこと? 散歩?なはずないわよね』

「ふふっ、近くでタイヤがパンクしちゃいまして。 スペアタイヤを積んでなかったものですから、今JAFを待っているところなんです。 それで先生が待ち切れなくなって、先に向われたんです」

スナイパーに始末させるために、敢えて先に向わせたのだ。 万が一、生きていたならば、自身の手で依頼主に引導を渡そうとまで画策していたのである。

『まあ、そうだったの!? それは大変だったわね。 能見君、いつもお父さんのわがままに付き合わせちゃって、ごめんなさい』

「いえ、とんでもありません。 これも秘書の仕事ですから。 ただ、今日付けで辞めますけど・・・」

『え? 今何て言ったの? 最後の方がよく聞き取れなかったけど』

「・・・ 寅子さん」

『はい』

「好きです。 初めて逢ったときから、あなたのことがずっと好きでした」

『えっ、ど、どうしたの急に!?』

「急に告白しちゃ、駄目ですか?」

『ううん、駄目じゃないけど・・・ あの、私、結婚してるのよ?』

婚姻契約を大義名分に、波乱を回避したがっているようである。

「知ってます。 それでも好きなんです。 ご主人の次でも構いません。 あなたの気持ちを分けてくれませんか?」

不倫相手の園山の名を出そうか躊躇したが、フェアでありたいがため、敢えて口には出さずにおいた。

『それじゃ、能見君がかわいそうでしょ。 こんなおばさんなんかより、もっと若い娘の方が絶対お似合いなはずよ』

「今は他の誰かなんてどうでもいいんです。 あなたのことしか考えらないんだ」

『そんなこと言われても困るわ』

「困らせてしまったら、あやまります。 今すぐ返事をくれとは言いません。 来月になったら暇ができるので、どこか遊びに行きませんか? そのときに返事をお聞かせ下さい」

『・・・ はい。 それじゃあ、10月の4日でもいい? その日なら、娘も旦那も留守なの』

「ありがとうございます。 では10月4日、楽しみにしてます。 それまでに溜まってる仕事を片付けておきます」そう言うや、スナイパーを睥睨する。

眼前に、空前絶後の大仕事が待っているのだ。

『あまり無理しないでね。 パンク直ったら、いらしてね』

「はい、ありがとうございます。 すぐ向かいます。 それじゃ」電話を切り、ポケットに収める。

最初で最後の恋、ここに極まる。

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