No.157
な、何ぃ・・・!? 驚愕した能見が、声の方向を見やる。
スナイパーである。
壬生と滑川によってダメージを負っているか検分するが、コートが汗で濡れているだけで、ダメージはないようだ。
「う、うそだろ・・・ あいつら、傷一つ付けられなかったのかっ?」
これで能見の勝率はゼロである。
「ま、そういうことだ。 ナイフの大男は無謀だったが、アサルトライフルの奴は、もう少しで殺られるとことろだったぞ」
それだけ聞けば十分だ。 滑川をもってしても、スナイパーを殺害できなかったとは・・・ 残るは能見、ただ一人。
「俺なんかより、ターゲットを追った方がいいんじゃないのか? もうすぐ家に着くぞ」
壬生と同様、殺意のベクトルを依頼主に向けさせる。
「追うまでもない。 今はおまえと闘いたいんだよ。 それに、あんな死に損ない、いつでも始末できるさ。 なんなら、あいつが家に辿り着いたときに、家族まとめて惨殺してやってもいいんだからな」
一家惨殺・・・ 象山院や寅次郎はどうでもいいとして、寅子や寅美にまで危害を及ぼすわけにはいかない。
最早、依頼主のことなど念頭にはないのだ。
「くそっ、やるよ! やってやるよ! あんな死に損ないならともかく、あの親娘にだけは手出しさせねえよっ!」ジャケットを脱ぎ捨て、抜銃した。
その右手に握られているのは、シグ・ザウエルP230。 日本のSPが所持する小型拳銃である。
パンッ! パンッ! パンッ!
能見が、間隙を縫うことなく発砲する。
「うおっ!」抜銃から発砲までの所作が見えていながらも、躱すだけで精一杯である。
「や、やるじゃねぇかよ!」スナイパーも能見に続き、抜銃した。
しかし、シリンダー内には弾丸が残り二発、到底銃撃戦には持ち込めまい。
と、その時、眼前に足甲が迫る!
ゴッ!
コンマ数秒、意識を外したスナイパーが右上段蹴りを打ち込まれるが、かろうじて左腕でガードする。
「なかなかいい蹴りだな!」
左腕の痺れに耐えながら、驚嘆の声を上げる。
右脚着地と同時に、後方上段回し蹴り。 これはモーションを読まれスナイパーに躱される。
反撃を恐れ、咄嗟に間合いを取る。
「これでもまだ、壬生や溝呂木には劣るけどな」
「あんな雑魚どもより、おまえの方が弱いっていうのか?」
「ああ。 あいつらの格闘センスは、一流軍人ですら太刀打ちできないくらいだからな」
プルルルルルッ!
と、その時、能見の携帯電話に、着信が入ったようである。
ちっ、誰だ、こんな時に!? と、寅子さんっ・・・
「ち、ちょっと待っててくれ!」
「かまわねぇよ。 さっさと出ろよ」
着信者は、能見の想い人、寅子からだった。