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伝説のスナイパー  作者: まこと
155/162

No.155

9月14日、午後8時53分。 スナイパー達との交戦地区から、直線距離にして約2キロ。 寅次郎・寅子夫妻が住む邸宅では愛娘、寅美の誕生日祝いが佳境を迎えていた。

その当の本人は、はしゃぎ疲れ、祖父を待たずに就寝している。

いつまでも祝いの場に姿を見せない実父に、業を煮やした寅子は時計を見やる。

「お父さん、遅いわね。 寅美の誕生日なのに、何してるのかしら?」

娘の心配をよそに、スナイパーに命を狙われているのだ。

「まあ、いいじゃないか。 お義父さんも、あちこち忙しく飛び回ってるんだろう。 きっと今夜の誕生日パーティーのことも、忘れてるんじゃないのかい?」

事なかれ主義の寅次郎は、どこ吹く風と言わんばかりに、義父に対し無関心を装う。

本来ならば、こんな羞恥の塊でできたかのような名を強要された義父を、足蹴にして抹殺してやりたいところであるが、そこは寅子の御前、殺意を抑制せざる得ない。

万が一密告でもされようものなら、どんな目に遭うか知れたものではない。

「そんなはずないわ。 寅美の誕生日や行事の日は、必ず時間を明けて顔を出してるじゃない。 さっきお父さんの携帯に電話したんだけど、さっぱり繋がらないのよね」

象山院の携帯電話は、警察への介入を阻止するために、能見によって握り潰されたのだ。

「それじゃあ、あの秘書の人には電話したのかい?」

「ええ、能見君でしょ。 電話したけど、繋がらないの」

能見の名を聞き、頬を赤らめる。 園山とまでは行かぬまでも、寅子も能見に対し、多少の好意を抱いていた。

不倫に励み、実父の部下を骨抜きにする。 まさに人妻の鑑と言えよう。 知らぬは愚鈍な夫だけである。

「そういえば、さっきから外でパンパンパン音がしないか?」

「そう? どうせ子供達が、花火で遊んでるんでしょ」

「またあのクソガキ共か! 今度こそ息の根止めてやろうか!」

返り討ちに遭うのが関の山である。

「ちょっとぉ、止めておきなさいよ、そんな大人気ない」

見え透いた虚勢を張る夫を、やんわりたしなめる。

「ま、寅子がそう言うんなら、今夜は見逃しといてやるか」

寅子の機転により、命拾いをしたようだ。


寅次郎に求婚を迫られ、断る理由もないまま半年の交際を経て結婚、出産と寅子の人生は順風満帆そのもの、何不自由のない平穏な生活だった。

しかし、このまま何の充足感もなく、人生が閉塞していく焦燥感に囚われているのも事実であった。

そんなときに出会ったのが、国会議員の園山だった。 園山は寅次郎のような煮え切らない性格とは違い、常に野心に満ち溢れていた。

寅子は今までに感じたことのない背徳心に、すっかり不倫の虜となったのだ。

この「功績」を打ち明けたい衝動に駆られた時には、能見を相談役にした。

もちろん事実を事実のまま伝えず、園山を夫に置き換えることも忘れずにいた。 幸いにも、能見は深く追及せず、聞くに任せるだけだった。

不倫の事実が周囲に知れ渡っているなどと、露ほどにも思っていない女の赤裸々な体験記である。

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