No.152
スナイパーの進撃により、滑川との距離がみるみる縮まっていった。
92メートル、86メートル、82メートル、75メートル・・・
それに比例して、着弾のバラつきもなくなり、被弾するリスクが高まってきているのも事実である。
左右に回避しながら進んでも、弾丸が体を掠めるようになってきた。
「くっ、ここまでが限界かっ!」
69メートル、もう少し前進したいところであるが、やむを得まい。
回避行動のまま助走を付け、体を沈み込ませるように腰を落とし、脱力から、全身の筋肉を総動員させてのスーパースローイング!
スナイパーが放った鉄柵はロンギヌスの槍と化し、滑川目がけ高速飛来していった!
「まさか、あの棒切れを投げ付けるのか? 勝てないと知って、無駄な抵抗でもすっ・・・」ドンッ! 頭部に、これまでにない強い衝撃が走ったと同時に、条件反射的にトリガーを引いていた。
ガーンッ! 銃撃の反動で仰向けに倒れた。
その滑川の額には、ロンギヌスの槍が深々と突き刺さっていたのだ。
人間は「線」の動きには対応できても、迫り来る距離が掴めない「点」の動きには対応できないのだ。
スターライトスコープ越しで見る映像なら、尚更のことであろう。
本日スナイパーの記録、121.83メートル。 もちろん、これは遮蔽物がいないことを考慮しての記録である。
世界記録を塗り替える快挙を達成したのだが、飽くまでこれは非公式、世間に公表されることは一切ないのだ。
なんだ? なんで星が見えるんだ? もしかして、俺は倒れてるのか? だとしたら、早く起きなきゃ・・・ あ、あれ、体が動かない・・・ それに感覚もないぞっ! どうなってんだ?
額に鉄柵が突き刺さっているのだ、瀕死の重症であることは、誰の目からも明らかである。
「そんなバカな・・・ 頭に柵が刺さっても、まだ生きてるのかよっ!? なんだよ、こいつ! すごい生命力だな・・・」
砲煙弾雨の中、狙撃ポイントに到達したスナイパーが、虫の息の滑川を見て驚嘆の声を上げた。
う、うそだろっ!? い、いつの間にここまで来たんだよっ!?
頭部の損傷により、時間の概念が消失しつつあった。
「こいつ、気持ち悪い奴だな」そう言うや否や、鉄柵を掴み、脳内部をこねくり出した。
「あががががっぎぎぎぎーっ」
滑川が奇声を上げながら、全身を激しく痙攣させ、小脳に達した時点で沈黙し、やがて絶命した。