No.149
「いぎぎぎぎっ・・・」
壬生は吐瀉物を撒き散らしながら、血尿を漏らし、地べたをのたうち回っていた。
睾丸は潰され、スナイパーによって子孫繁栄の権利は、完全に剥奪された。
うん、いい眺めだ。 やっぱり男はこうでなくちゃ。
股間を押さえ、悶え苦しむ姿に、デブ椎名の面影を重ね合わせていた。 スナイパーの裡に眠る加虐性衝動に、火が点いたようである。
「はぁ、はぁ。 す、すまなかったっ! ゆ、ゆ許してくれっ・・・た頼むっ、今回だけは見逃してくれっ」
涙と鼻水、大量の脂汗が蒼白となった顔面を滴り落ち、仇敵に哀願する。
「許してくれだって? それじゃ何か、おまえは明日からオカマとして生きてくつもりか?」
「あ、ああ・・・ ご、護衛を辞めて、し、新宿二丁目で、働いていこうと思ってるんだ・・・」
「駄目だ。 オカマなんて中途半端な存在は認められん。 やはりおまえはここで殺しておく。 第一、そんな顔じゃ、客も寄り付かんだろう」
今や生殺与奪の権利は、スナイパーにある。 そんな全知全能の神が、死刑を宣告したのだ、壬生の同性愛者としての夢は、敢え無く潰える運命となる。
「ま、ま待てくれっ! そ、それよりっ、こんな所で、のんびりしてていいのか・・・!? の、能見達が、娘の、家に着いたら、し、象山院を、殺せなくなるぞっ・・・!」
助かりたい一心から、のたうち回りたい激痛に耐え、スナイパーに殺意のベクトルを依頼主に向けるよう、一縷の望みに賭ける。
「問題ない。 象山院が娘の家に逃げ込んだら、目撃者を皆殺しにすればいいだけだ。 これから死ぬおまえには関係ない話だろう」
目撃者は始末せよ。 事もなげに、一家惨殺を仄めかすスナイパーに恐怖を隠せずにいた。
あんな棺桶に両足を突っ込んだ老人なんて、放っておけば勝手にお迎えが来るはずだ。 前途洋々な俺が殺されてどうするんだ、そんなのおかしいだろう。
同性愛者として、残りの人生を全うする方が前途多難であろう。
これはもう護衛どころの騒ぎではない。 自分自身を護れぬようで、誰を護れようか。
護衛者にあるまじき思想である。
「た、頼むっ! こ、こここ殺さないでくれっ!」
「オカマ志望の分際で、往生際が悪いぞ。 さっさと覚悟しな」
同性愛者の命乞いなど、取るに足りぬ。
ドボッ!
スナイパーが、うずくまる壬生の腹部を蹴り上げる。
「ぎゅおっ!」コンバットブーツのつま先が深々とめり込み、208センチの巨漢が宙に舞った。
腹部内の臓器は、衝撃により破損し、大量の血を吐き出し、絶命した。 外傷性ショック死であった。